小学生の野球肘で知っておきたいこと|症状・受診・予防・投球復帰

小学生の子どもが野球をしていて、

「肘が痛いと言っているけれど、成長痛かな?」

「少し休めば治るのかな?」

「病院に行った方がいい?」

「投手だから仕方がないの?」

と迷う保護者は少なくありません。

小学生の野球肘は、単に「投げすぎ」だけで説明できるものではありません。

成長途中の骨・成長部に投球による繰り返しの負荷が加わることに加え、投球量、守備位置、疲労、競技歴など、複数の要因が関係します。

日本の全国調査では、肩や肘の痛みがなかった小学生野球選手7,894人のうち、1年間に**肘痛を経験した選手は12.3%、肩痛は8.0%、肩または肘の痛みは17.4%**でした。

また、別の日本の前向き研究では、7~11歳の野球選手449人を1シーズン追跡したところ、30.5%がシーズン中に肘痛を経験しました。

つまり、小学生の野球肘は決して珍しい問題ではありません。

この記事では、小学生の野球肘について、

**「何が起きているのか」「いつ受診するのか」「何に注意するのか」「どうやって投球に戻るのか」**

を、成長期という視点から整理します。

※この記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断・治療を行うものではありません。


1.結論の要約

小学生の野球肘について、まず知っておきたいことは次の5つです。

  • 小学生の肘は成長途中であり、大人とは異なる部位に障害が起こることがあります。
  • 肘の痛み、特に投球時痛や肘の伸ばしにくさを「成長痛」と決めつけないことが大切です。
  • 痛みがある状態で投球を続けるのではなく、まず投球負荷を止めたり減らしたりして、必要に応じて医療機関で評価を受けます。
  • 投球数だけでなく、守備位置、練習量、疲労、競技歴、複数チームでの活動なども含めて考える必要があります。
  • 痛みがなくなっただけで、すぐに全力投球へ戻すのではなく、状態を確認しながら段階的に復帰します。

2.症状・状況の説明

小学生の肘は「成長途中」

小学生の身体で、大人と大きく違うのが骨がまだ成長していることです。

成長期の肘には、骨が成長するための骨端部・成長軟骨などがあります。

そのため、投球による繰り返しの負荷がかかったときに、成人とは異なる部位に障害が起こる可能性があります。

成長期の投球障害では、年齢や骨の成熟度によって障害されやすい部位が変わることが知られています。

特に小学生では、内側上顆周辺の成長部や、外側の上腕骨小頭に起こる骨軟骨障害などが重要になります。日本整形外科学会も、成長期の野球肘では肘の内側・外側・後方に異なる障害が起こりうると説明しています。

したがって、

「小学生だから軽い症状だろう」

とは限りません。


小学生の肘痛は珍しくない

日本全国の小学生野球選手8,354人を対象にした調査では、前年に肩・肘の痛みがなかった7,894人のうち、1年間に、

  • 肘痛:12.3%
  • 肩痛:8.0%
  • 肩または肘の痛み:17.4%

が経験していました。

さらに、7~11歳の449人を1年間追跡した別の研究では、30.5%がシーズン中に肘痛を経験しました。肘痛を経験した選手の72.3%には身体診察上の異常があり、そのうち81.4%にはX線上の異常が認められました。

研究ごとに対象者・調査方法・「痛み」の定義が異なるため、数字を単純に比較することはできません。

ただし、これらの研究から、

小学生の野球選手では肘痛が一定の頻度で起こっており、痛みがあった選手の中には身体所見や画像上の変化を伴う選手もいる

ことは知っておく価値があります。


特に注意したい症状

小学生の選手で、次のような症状があれば注意が必要です。

投げると肘が痛い

特に、

  • 投球中に痛い
  • 投球後に痛い
  • 毎回同じ場所が痛い
  • 投球するたびに痛みが強くなる

といった場合です。

日本整形外科学会でも、野球肘の代表的な症状として投球時・投球後の肘痛を挙げています。

肘が伸びにくい

痛みだけでなく、

「反対の肘より伸びない」

という変化も重要です。

2023年に茨城県の小学生を対象に行われた超音波スクリーニングでは、上腕骨小頭のOCDと診断された10人のうち7人が無症状でした。

また、肘の可動域制限と伸展時痛がOCDに関連する因子として確認されています。

これは、

「痛くないから大丈夫」

とは限らないことを示す一例です。


3.判断のポイント

「成長痛かな?」と自己判断しない

小学生が「肘が痛い」と言ったとき、

「成長期だから痛いのかな?」

と思ってしまうことがあります。

しかし、野球をしていて特定の動作で繰り返し肘が痛む場合は、単なる「成長痛」と決めつけない方がよいでしょう。

野球肘には、成長期の骨・成長部に起こる障害や、骨軟骨病変などが含まれます。


痛みがあれば、まず投球を止める

小学生に限らず、野球肘が疑われる場合は、痛みを我慢して投球を続けないことが基本です。

日本整形外科学会も、野球肘では投球の中止と肘の安静が重要であり、痛みを我慢して投球を続けると障害が悪化する可能性があると説明しています。

ここでいう「休む」は、

野球に関係するすべての活動を一律に禁止する

という意味ではありません。

障害の種類や程度によって、

  • 投球だけを休む
  • 肘に負担の大きい動作を制限する
  • 許可された範囲で走る
  • 下半身や体幹のトレーニングを行う

など、対応は異なります。

したがって、具体的な活動範囲は医療者に確認することが重要です。


「痛みが消えたから投げていい?」にも注意

痛みがなくなることは良い変化です。

しかし、

痛みがなくなった=肘の状態が完全に戻った

とは限りません。

例えば、画像上の病変が残っている場合や、肘の可動域・筋力などが十分に戻っていない場合には、すぐに全力投球へ戻ることが適切とは限りません。

特に上腕骨小頭OCDでは、病変の大きさや安定性などによって経過が異なります。

そのため、復帰は「痛みがないか」だけではなく、診察や必要な検査の結果を含めて判断することが重要です。


4.受診の目安

小学生の肘痛は、早めに相談する

次のような場合には、自己判断で投球を続けず、医療機関で評価を受けることをおすすめします。

  • 投球すると肘が痛い
  • 投球後にも痛みが残る
  • 同じ場所の痛みを繰り返す
  • 肘が伸びにくい
  • 肘を曲げにくい
  • 腫れがある
  • 痛みが強くなっている
  • 投球以外の日常生活でも痛い
  • 以前にも肘を痛めたことがある

日本整形外科学会では、投球時・投球後の痛みや肘の伸び・曲がりの悪さを野球肘の症状として挙げています。


特に「肘が伸びない」は見逃さない

小学生の野球肘では、

「痛み」だけでなく「動きの変化」

にも注意したいところです。

2021年の京都府の調査では、2011年と2021年の少年野球選手を比較し、2021年の肘障害群では、肘の伸展時痛・屈曲時痛、疲労状態でのプレー、上下肢の柔軟性低下などが有意に多く認められました。

また、OCDのスクリーニング研究でも、肘の可動域制限が関連因子として確認されています。


何科を受診する?

まず候補となるのは整形外科です。

可能であれば、

小児・成長期のスポーツ障害や野球肘を診療している整形外科

を選ぶとよいでしょう。

診察では、

  • 痛みの場所
  • 発症時期
  • 投球時か投球後か
  • 肘の可動域
  • 圧痛
  • 投球歴
  • 守備位置
  • 成長段階

などを確認し、必要に応じてX線や超音波、MRIなどの画像検査が検討されます。日本整形外科学会も野球肘の診断にX線やMRIを用いるとしています。


痛みがなくても検査することはある?

ここは非常に慎重に考える必要があります。

茨城県の小学生135人を対象としたスクリーニングでは、10人に上腕骨小頭OCDが確認され、そのうち7人は無症状でした。

また、日本では1,605人の少年野球選手を対象に、問診、身体診察、超音波、X線などを組み合わせた肘検診も実施されています。

ただし、

「小学生は全員MRIを撮るべき」

という意味ではありません。

スクリーニングや追加検査の必要性は、年齢、競技歴、症状、身体所見などによって判断されます。


5.予防・セルフケア

「投球数だけ」を見ない

小学生の野球肘予防を考えると、まず投球数は重要な管理項目です。

一方、現在の医学研究では、

「○球以下なら絶対に安全」

という単純な境界線が確立しているわけではありません。

日本の全国調査でも、年齢、守備位置、練習状況など複数の要因が検討されています。

また、2021年の京都府の調査では、肘障害のある選手で疲労状態でのプレーや上下肢の柔軟性低下が多く認められました。

そのため、

投球数

だけでなく、

疲労・連投・練習量・競技環境・身体状態

まで含めて考えることが重要です。


現在の学童野球には投球数のルールがある

全日本軟式野球連盟では、2026年シーズンから学童部に1週間の投球数制限を導入しています。

現在のルールでは、

  • 1日70球以内
  • 4年生以下は1日60球以内
  • 1週間210球以内
  • 4年生以下は1週間180球以内

とされています。

これは競技団体のルールです。

一方、日本臨床スポーツ医学会の1995年の提言では、小学生について全力投球を1日50球以内、試合を含めて週200球以内としています。

両者は作られた目的や位置づけが異なるため、

競技ルール=医学的に絶対安全な球数

と考えないことが重要です。


疲労した状態で投げ続けない

小学生の肘を守るためには、球数だけでなく疲労にも注意します。

日本の少年野球選手の研究では、疲労状態でプレーしている選手と肘障害との関連が報告されています。

また、若年野球選手の肩・肘障害をまとめたシステマティックレビューでも、疲労、投球量、練習量、複数チームでの活動など複数の要素が関連因子として整理されています。

したがって、

「あと少しだから投げる」ではなく、「疲労しているなら投球を減らす」

という判断も重要です。


身体全体の状態も確認する

小学生の投球では、

  • 肩甲帯
  • 体幹
  • 股関節
  • 下肢

なども投球動作に関わります。

これまで読み込んできた投球動作・運動連鎖の資料でも、投球を下肢から体幹、上肢へつながる全身動作として捉える考え方が示されています。

ただし、

「股関節が硬いから野球肘になる」

と単純には言えません。

小学生では成長によって身体が変化するため、フォームだけを矯正するのではなく、身体の成長・疲労・投球量・動作を総合的に見ることが大切です。


6.復帰の考え方

「何日休めば投げられる?」には一律の答えがない

小学生の野球肘でよくある疑問が、

「何日休めば投げられますか?」

というものです。

しかし、これは全員に共通する日数を設定することができません。

野球肘には複数の病態があり、成長段階、病変の種類や程度、症状、画像所見などによって経過が変わるためです。日本整形外科学会も復帰時期について主治医とよく相談するよう説明しています。


痛みがなくなっても、いきなり全力投球しない

復帰する際には、

日常生活で問題がない

必要な身体機能を確認

軽い投球から再開

徐々に投球量・強度を増やす

実戦復帰

というように、段階的に進めます。

具体的な投球再開プログラムは病態によって異なるため、医療者の指示に従います。


復帰後も負荷管理を続ける

一度野球肘を経験した選手では、再び肘に負荷が集中しないように、

  • 投球量
  • 休養
  • 疲労
  • 身体機能
  • 複数チームでの活動

などを見直すことが重要です。

小学生の野球肘では、「治ったから元通り」ではなく、

「今の身体に合った投球量に戻していく」

という考え方が大切です。


7.筆者の経験・現場での声

「小学生の自分は、痛いことを説明できなかった」

私自身、小学生の頃に肩を痛めて投げられなくなった経験があります。

当時は、自分の身体に何が起きているのかを説明する知識がありませんでした。

「痛い」とは言えても、

「どこが、どんな動きで、なぜ痛いのか」

までは分かりません。

現在、柔道整復師・鍼灸師として臨床に携わり、さらに少年野球の現場で子どもたちと接するようになって、改めて感じるのは、

子ども自身が痛みを正しく伝えられないことがある

ということです。

また、痛みを伝えても信じてもらえない子供もいます。

だからこそ、指導者や保護者が、

まず異変を察知し、

「投げたときに痛くないか」

だけではなく、

「肘が伸びにくくなっていないか」

「投げた後も痛みが残っていないか」

「最近疲れていないか」

といった変化にも目を向けることが大切だと考えています。

※この章は筆者自身の経験・現場経験に基づくものであり、医学的研究結果を示すものではありません。


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参考文献・情報源

学術文献

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公式情報

  1. 日本整形外科学会「野球肘」
    症状、診断、投球中止、治療・復帰について。
  2. 日本臨床スポーツ医学会「青少年の野球障害に対する提言」
    小学生の投球数・練習時間などに関する1995年提言。
  3. 公益財団法人 全日本軟式野球連盟「学童部における一週間に係る投球数制限の導入について」
    2026年シーズンからの学童部の投球数制限。