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野球選手の股関節・骨盤の痛みはなぜ起こる?

「野球をしていて股関節が痛くなった」
「最近、骨盤のあたりが気になる」
「練習量が増えてから脚の付け根が痛い」

このようなとき、「練習しすぎたからかな」「股関節が硬いからかな」「フォームが悪いのかな」と、原因を一つに決めたくなるかもしれません。

しかし、野球選手の股関節・骨盤周辺の痛みは、一つの理由だけで説明できるとは限りません。

股関節周辺には、関節、筋肉や腱、骨、その付着部などさまざまな組織があり、痛みの原因も一つではありません。また、アスリートの股関節痛は原因の特定が難しいことがあり、痛みの場所や発症時期、活動との関係などを含めた評価が重要です。[1][2]

さらに、成長期の選手では成人とは異なる身体の特徴があり、運動負荷や急な動作、身体機能なども症状の背景を考えるときに確認したい要素になります。[1][5][7]

この記事では、「何が原因なのか」を自己判断するのではなく、股関節・骨盤の痛みと関係する可能性のある要素を整理していきます。


股関節・骨盤の痛みは「一つの原因」で起こるとは限らない

股関節や骨盤周辺が痛いからといって、必ずしも一つの場所や一つの原因だけで説明できるとは限りません。

股関節周辺には、関節だけでなく筋肉、腱、骨、骨の付着部など、さまざまな組織があります。[1][2]

また、股関節周辺の痛みが、腰や骨盤など別の場所から伝わってくることもあります。[1][8]

そのため、

「ここが痛いから、この原因だ」

とすぐに決めるのではなく、身体の状態、野球で受ける負荷、痛みが始まった状況、その後の経過などを合わせて考えることが大切です。

いくつかの要素を合わせて考える

股関節・骨盤の痛みを考えるときは、

  • 成長期の身体の変化
  • 野球で行う動作
  • 繰り返しの運動負荷
  • 練習量や運動負荷の変化
  • 急な動作や強い筋収縮
  • 股関節の可動域などの身体機能

といった情報を確認することがあります。[1][2][5][7]

これは、これらがそろうと必ず痛みが起こるという意味ではありません。

症状の背景を整理するための視点として考えていきましょう。


野球では股関節・骨盤を使う動作が多い

野球では、股関節や骨盤周辺を使う場面が一つではありません。

投げる、打つ、走る、守備で動くなど、さまざまな動作のなかで下半身と体幹を使います。[3]

投げる

投球では、下半身や体幹を利用して力を生み出し、それを上半身へ伝えていきます。

股関節を含む身体の近位部も、その動作の一部として関わります。[3]

ただし、「投球をするから股関節が痛くなる」と単純に考えることはできません。

打つ・踏み込む

バッティングでも、股関節や骨盤は身体の動きの一部として関わります。

踏み込みやスイングなど、複数の動作が連続するため、「打つと痛い」という場合も、どの場面で症状が出るのかを整理することが大切です。[3]

走る・守備で動く

走る、止まる、方向を変える、ボールを追うなど、野球ではさまざまな下半身の動作があります。

そのため、股関節・骨盤の症状を考えるときは、どの動作をどの程度行っていたのかも振り返ってみましょう。


関係する要因①|繰り返しの運動負荷

野球では、似たような動作を繰り返す場面があります。

そのため、股関節・骨盤周辺の症状を考えるときには、普段どのような運動をどれくらい行っていたのかを確認することが役立ちます。[3][5][7]

同じような動作が繰り返される

練習や試合では、走る、投げる、打つ、守備で動くなどの動作を繰り返します。

ただし、

「同じ動作を繰り返したから痛くなった」

と単純に決めることはできません。

繰り返しの運動負荷は、症状の背景を振り返るときに確認したい要素の一つと考えましょう。

練習や試合が続く

大会や練習試合が続いた時期には、普段と比べて運動量や頻度が変化していることがあります。

痛みが出たときは、

「最近、いつもより練習や試合が増えていなかったか」

を振り返ってみると、症状が始まるまでの経過を整理しやすくなります。


関係する要因②|練習量や運動負荷の変化

痛みが出る前に、普段と比べて運動量が変わっていなかったかを確認することも大切です。

たとえば、

  • 練習時間が増えた
  • 試合が続いた
  • 走る量が増えた
  • ダッシュが増えた
  • 久しぶりに強い運動をした

などです。

ただし、ここで注意したいのは、

「練習量が増えた=股関節・骨盤の痛みの原因」ではない

ということです。

青少年アスリート全般を対象としたsystematic reviewでは、トレーニング負荷と傷害などとの関係について、単一の負荷指標だけでは明確に説明できない部分があり、成熟度などの要素も考慮する必要があるとされています。[5]

そのため、練習量や運動負荷の変化は「原因」と決めつけるのではなく、

症状が始まる前に、運動負荷がどのように変化していたか

を確認するための情報として考えましょう。


関係する要因③|成長期の身体の変化

成長期の野球選手では、成人とは異なる身体の特徴があります。

股関節・骨盤周辺の痛みを考えるときにも、年齢だけではなく、現在どのような成長段階にあるのかを考慮することが大切です。[1][7]

成長期は成人とは異なる特徴がある

成長期には骨格が発達していくため、筋肉や腱が付着する骨の部分にも成人とは異なる特徴があります。[1][7]

2026年に公表された股関節・骨盤のオーバーユース障害に関するレビューでも、骨格の成熟度によって問題となりやすい病態が異なることが示されています。[7]

成長期の骨の付着部が関係することがある

筋肉や腱が付着する成長期の骨の部分には、

アポフィジス

と呼ばれる部位があります。

成長期の股関節・骨盤周辺では、このような骨の付着部に関連する問題が起こることがあります。[1][7]

そのため、「大人と同じようなスポーツ障害として考えればよい」とは限りません。

一方で、

「成長期だから問題ない」

と決めつけるのも適切ではありません。

症状の場所や経過、運動との関係などを含めて考えることが大切です。


関係する要因④|急な動作や強い筋収縮がきっかけになることもある

股関節・骨盤の痛みは、少しずつ気になってくる場合だけでなく、ある動作をきっかけに急に始まることもあります。

特に成長期の選手では、急激な筋収縮などをきっかけに、骨盤周辺の骨の付着部に損傷が起こることがあります。[1][4]

急に強い力が加わる

たとえば、強くダッシュする、急に踏み込む、瞬間的に強い力を発揮するなどの動作があります。

こうした動作をきっかけとして、急に痛みが出る場合があります。

成長期では骨の付着部に損傷が起こることがある

成長期の骨盤周辺では、筋肉・腱が付着する部分に、強い筋収縮や急激な牽引によって剥離損傷が起こることがあります。[4]

これは、成長途中の骨の付着部が成人とは異なる状態にあることと関係します。[1][4]

ただし、

「ダッシュをした=骨盤の剥離損傷」

という意味ではありません。

急に痛くなった場合には、何をしていたときに痛くなったのか、どの動作がきっかけだったのかを振り返ることが重要です。


関係する要因⑤|股関節の可動域など、身体機能の特徴

股関節・骨盤の状態を考えるときには、股関節の動きや筋力などの身体機能が確認されることがあります。

ただし、

「体が硬いから痛い」

「筋力が弱いから痛い」

と単純に決めることはできません。

股関節の可動域

2026年に公表されたsystematic reviewでは、4,000人を超える野球選手を対象とした17研究から、股関節の回旋可動域と傷害との関連が検討されています。[6]

一部の研究では、特定の股関節回旋可動域と傷害との関連が報告されています。

一方で、研究間のばらつきがあり、健康な選手と傷害を有する選手の可動域差も小さいことから、股関節の可動域だけで傷害の原因を判断することはできないとされています。[6]

筋力などの身体機能

野球選手では、股関節周辺を含む身体機能が投球や打撃などの動作と関係することが報告されています。[3]

しかし、筋力の数値だけを見て、

「筋力不足が股関節・骨盤の痛みを起こした」

と判断することはできません。

可動域や筋力などは、身体の状態を評価するときの一つの情報として考えるのが適切です。


フォームだけで股関節・骨盤の痛みの原因を決められる?

「フォームが悪いから痛くなった」と考えることは、よくあるかもしれません。

しかし、フォームだけを見て、股関節・骨盤の痛みの原因を一つに決めることはできません。

アスリートの股関節痛にはさまざまな原因があり、詳細な病歴や身体診察などを組み合わせた評価が基本とされています。[2]

また、青少年アスリートでは、運動負荷と傷害の関係そのものが単純ではありません。[5]

そのため、

フォーム
↓
痛み

と一方向に考えるのではなく、

成長期の身体の状態
+運動負荷
+急な動作や負荷の変化
+身体機能
+実際の野球動作

などを合わせて考えることが大切です。

フォームを確認すること自体が役立つ場合はありますが、「フォームが悪い」という一言だけで原因を決めないことが重要です。


実際には、いくつかの背景を合わせて考える

ここまで見てきたように、股関節・骨盤の痛みを考えるときは、一つの原因だけを探すより、いくつかの背景を合わせて考えることが大切です。[1][2][5][6][7]

たとえば、

成長期である
+
最近、試合が続いていた
+
ダッシュが増えていた
+
ある動作をきっかけに痛くなった

というように、いくつかの情報が重なっていることがあります。

もちろん、こうした要素が重なったから必ず痛みが起こるわけではありません。

大切なのは、

「何が一番悪かったのか」を探すことではなく、痛みが出るまでの背景を整理すること

です。


「股関節が硬い」だけで原因を決めていい?

いいえ。

股関節の可動域は身体の状態を知るための重要な情報ですが、それだけで股関節・骨盤の痛みの原因を決めることはできません。

野球選手を対象とした2026年のsystematic reviewでも、股関節回旋可動域と傷害との関連が報告される一方、研究のばらつきや可動域差の小ささから、強い臨床的な結論には至っていません。[6]

したがって、

「股関節が硬いから痛い」

ではなく、

「股関節の動きも含めて、身体の状態を確認する」

という考え方が大切です。


原因を考えるとき、まず何を整理すればいい?

股関節・骨盤が痛くなったときは、いきなり「何のケガだろう?」と考えるより、まず症状が出るまでの背景を整理してみましょう。

いつから痛い?

  • 今日から
  • 数日前から
  • 少しずつ気になってきた
  • 以前から繰り返している

何をすると痛い?

  • 歩く
  • 走る
  • ダッシュする
  • 切り返す
  • バッティング
  • 投球
  • 守備

最近、運動量は変わった?

  • 練習時間が増えた
  • 試合が続いた
  • 走る量が増えた
  • ダッシュが増えた
  • 久しぶりに強い運動をした

急に痛くなった?

急に痛みが出た場合には、「そのとき何をしていたか」「どのような動作だったか」も重要な情報です。[1][2][4]

こうした情報は、医療機関で症状を説明するときにも役立ちます。


すべての痛みが「野球のせい」とは限らない

野球選手に股関節・骨盤の痛みがあると、「練習で負担がかかったのかな」と考えることがあるかもしれません。

しかし、股関節周辺の痛みは、必ずしもスポーツ動作だけで説明できるとは限りません。

股関節周辺の問題だけでなく、腰や骨盤など別の場所から痛みが伝わってくることもあります。[1][8]

そのため、

「野球を休めば原因がなくなる」

と単純に考えるのではなく、症状がどのように始まり、どのような経過をたどっているのかを確認することが大切です。


原因を自分で決めるのではなく、背景を整理する

股関節・骨盤の痛みについて調べていると、

「練習量が多いから」
「体が硬いから」
「筋力が弱いから」
「フォームが悪いから」

といった説明を見つけることがあります。

しかし、これらのどれか一つだけで、実際の痛みを説明できるとは限りません。

特に成長期の選手では、身体の成長そのものを考慮する必要があります。[1][7]

また、青少年アスリートのトレーニング負荷と傷害の関係についても、単一の負荷指標だけでは説明できないことが報告されています。[5]

だからこそ、

「何が悪かったのか」を一つ決めるより、

「いつ・どんな状態で・どんな負荷がかかって・どのように痛くなったのか」を整理する

ことが大切です。

これらは原因を自己判断するためのチェック項目ではなく、症状の背景を整理するための情報です。


まとめ|股関節・骨盤の痛みは、いくつかの視点から考える

野球選手の股関節・骨盤の痛みは、一つの原因だけで説明できるとは限りません。

症状の背景を考えるときは、

  • 成長期の身体の変化
  • 野球で行う動作
  • 繰り返しの運動負荷
  • 練習量や運動負荷の変化
  • 急な動作や強い筋収縮
  • 股関節の可動域などの身体機能

といった要素を確認することが大切です。[1][2][5][6][7]

ただし、

「練習しすぎだから」
「股関節が硬いから」
「フォームが悪いから」

と、一つの理由だけで原因を決めることはできません。

股関節・骨盤の痛みがあるときは、まずどこが、いつから、どんな動作で痛いのかを整理し、そのうえで最近の練習量や試合、急な動作なども振り返ってみましょう。

そのうえで、次は**「野球選手の股関節・骨盤が痛いときに考えられること」**を知り、必要に応じて受診や検査につなげていくことが大切です。


参考文献

[1] Sinha R, Ellis HB, Podeszwa DA, Sucato DJ, Morris WZ. Clinical evaluation of the painful adolescent and young adult hip. Journal of the Pediatric Orthopaedic Society of North America. 2024;7:100043. DOI: 10.1016/j.jposna.2024.100043.

[2] Calcei JG, Safran MR. Evaluation of Athletes with Hip Pain. Clinics in Sports Medicine. 2021;40(2):221-240. DOI: 10.1016/j.csm.2020.11.001.

[3] Mlynarek RA, Coleman SH. Hip and Groin Injuries in Baseball Players. Current Reviews in Musculoskeletal Medicine. 2018;11(1):19-25. DOI: 10.1007/s12178-018-9455-6.

[4] Di Maria F, Testa G, Sammartino F, et al. Treatment of avulsion fractures of the pelvis in adolescent athletes: A scoping literature review. Frontiers in Pediatrics. 2022;10:947463. DOI: 10.3389/fped.2022.947463.

[5] Dudley C, Johnston R, Jones B, et al. Methods of Monitoring Internal and External Loads and Their Relationships with Physical Qualities, Injury, or Illness in Adolescent Athletes: A Systematic Review and Best-Evidence Synthesis. Sports Medicine. 2023;53(8):1559-1593. DOI: 10.1007/s40279-023-01844-x.

[6] Paul RW, Anton B, Meloche M, et al. Effect of Hip Range of Motion Restrictions on Injury in Baseball Players: A Systematic Review. Journal of Athletic Training. 2026;61(8):543-551. DOI: 10.4085/1062-6050-0715.25.

[7] Akdogan AI, Tokgöz N, Tosun O. Overuse Injuries of the Hip and Pelvis: Apophysitis, Stress Fractures, and Tendinopathies. Seminars in Musculoskeletal Radiology. 2026. DOI: 10.1055/a-2932-1299.

[8] Houghton KM. Review for the generalist: evaluation of pediatric hip pain. Pediatric Rheumatology Online Journal. 2009;7:10. DOI: 10.1186/1546-0096-7-10.