野球をしている子どもや選手から、
「肩が痛い」
と言われたとき、保護者や指導者は、
「投げすぎかな」
「フォームが悪いのかな」
「少し休めば大丈夫かな」
と考えるかもしれません。
しかし、最初に知っておきたいのは、「野球肩」は一つの病気の名前ではないということです。
投球に関連する肩の痛みには、腱板、上腕二頭筋長頭腱、関節唇、肩関節周囲の軟部組織、肩甲帯の機能など、さまざまな病態や機能的問題が関係します。
投球肩を評価する際には、一つの病名だけに当てはめるのではなく、症状、身体診察、投球歴、競技歴などを総合して考えることが重要です。[4]
さらに、小学生や中学生などの成長期では、成人の投球障害肩とは異なる病態も考える必要があります。その代表的なものの一つがLittle League Shoulderです。[5]
一方、長期間投球を続けた選手では、可動域、筋力、骨形態などに競技への適応が生じることがあります。こうした変化は、それだけで「故障」を意味するわけではありません。[6]
だからこそ、
「肩が痛い」=「野球肩」
と単純に結びつけるのではなく、
- どこが痛いのか
- いつ痛いのか
- 成長段階はどうか
- どのくらい投げているのか
- 疲労していないか
- 身体全体がどのように動いているのか
を整理することが大切です。
この記事では、野球肩について、
肩の構造 → 投球で起こること → 症状 → 成長期 → 原因・リスク → 受診・検査 → 治療 → 予防 → 投球復帰
の順に整理します。
※この記事は一般的な医学・スポーツ医学情報を提供するものであり、個別の診断や治療、運動許可を行うものではありません。肩の痛みが続く場合や、投球に支障がある場合は医療機関に相談してください。
- この記事を読むと分かること
- 1.野球肩とは?
- 2.肩は「一つの関節」だけで動いているわけではない
- 3.投球では肩に大きな動きが生じる
- 4.「どこが痛い?」だけではなく「いつ痛い?」も重要
- 5.野球肩にはどのような症状がある?
- 6.成長期の野球肩は、大人と同じように考えない
- 7.Little League Shoulderとは?
- 8.日本の小学生野球選手でも肩痛は起こっている
- 9.野球肩は「投げすぎ」だけで説明できない
- 10.身体全体の使い方も確認する
- 11.「肩が硬い=野球肩」ではない
- 12.画像に異常があっても、それだけで診断は決まらない
- 13.肩の痛みがあるとき、投げ続けていい?
- 14.こんな症状が続く場合は受診を考える
- 15.何科を受診すればいい?
- 16.野球肩の検査
- 17.野球肩の治療
- 18.リハビリでは肩だけを見ない
- 19.野球肩の予防
- 20.運動連鎖をどう考える?
- 21.投球肩の「適応」と「障害」を分けて考える
- 22.投球復帰は「痛みがなくなった日」から始まるとは限らない
- 23.投球復帰の基本的な考え方
- 24.小学生・中学生・高校生では何が違う?
- 25.選手・保護者・指導者ができること
- 26.野球肩について「分かっていること」と「まだ分からないこと」
- 27.📝 筆者の経験から|「痛くなってから身体を知った」
- よくある質問
- まとめ
- 関連記事
- 参考文献・情報源
- 公式情報
この記事を読むと分かること
- 野球肩・投球障害肩とは何か
- 野球肩を一つの病気として考えない理由
- 投球で肩にどのような負荷がかかるのか
- 「どこが痛いか」だけでなく「いつ痛いか」が重要な理由
- 成長期に注意したいLittle League Shoulderとは何か
- 投球負荷や疲労をどう考えるのか
- 肩甲帯・体幹・下肢を含めて身体全体をどう見るのか
- 「肩が硬い=野球肩」ではない理由
- 病院では何を評価するのか
- X線・超音波検査・MRIの役割
- 野球肩の治療とリハビリの基本
- 投球復帰をどのように考えるのか
- 小学生・中学生・高校生で何に注意するのか
- 現在の研究で分かっていること、まだ分かっていないこと
1.野球肩とは?
野球肩は一つの病気ではありません
「野球肩」「投球障害肩」という言葉は、投球に関連して生じるさまざまな肩の痛みや障害をまとめて扱う際に使われます。
代表的な病態には、
- 腱板に関する障害
- 上腕二頭筋長頭腱に関する障害
- 関節唇の病変
- internal impingementなど
があります。
ただし、肩の痛みがあるというだけで、どの病態なのかを自己判断することはできません。
投球肩の評価では、症状の経過に加えて、肩の可動域、筋力、腱板、上腕二頭筋、関節唇、不安定性、肩甲骨の動きなどを総合的に確認します。[4]
したがって、
「野球肩=一つの病名」
ではなく、
「投球に関連するさまざまな肩の問題をまとめて考える言葉」
と理解しておくと分かりやすいでしょう。
2.肩は「一つの関節」だけで動いているわけではない
肩の動きというと、肩甲上腕関節を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、実際の上肢の動きには、
- 肩甲上腕関節
- 肩甲胸郭部
- 肩鎖関節
- 胸鎖関節
などが関係します。
さらに胸郭や体幹の動きも上肢の運動に関わります。
そのため、投球障害を考えるときには、肩関節だけを切り離して見るのではなく、肩複合体と身体全体の動きの中で捉える視点が重要です。[4]
3.投球では肩に大きな動きが生じる
投球では、腕が大きな範囲を高速で動きます。
一般的には、
ワインドアップ
↓
コッキング
↓
後期コッキング
↓
加速
↓
ボールリリース
↓
フォロースルー
という一連の動きとして捉えます。
そのため、肩の痛みを評価するときには、
「どの動きで痛むのか」
を確認することが重要です。
例えば、
- 腕を後ろへ引いたとき
- 加速するとき
- ボールを離すとき
- 投げ終わったあと
- 投球後から翌日にかけて
など、痛みが出るタイミングによって確認すべきポイントは変わります。
ただし、痛みが出る投球phaseだけで病名を決めることはできません。
4.「どこが痛い?」だけではなく「いつ痛い?」も重要
野球肩では、まず痛む場所を確認します。
しかし、
痛む場所だけでは十分ではありません。
例えば、
- 肩の前が痛い
- 肩の後ろが痛い
- 肩の外側が痛い
という情報だけでは、特定の病態を判断できません。
それに加えて、
- 投球中なのか
- 投球後なのか
- 翌日にも残っているのか
- 腕を上げると痛いのか
- 腕を後ろに引くと痛いのか
などを確認する必要があります。
つまり、
「どこが痛いか」+「いつ痛いか」
の両方から症状を整理することが大切です。
5.野球肩にはどのような症状がある?
投球選手にみられる肩の症状には、
- 投球時の肩痛
- 投球後の肩痛
- 翌日まで残る痛み
- 腕を上げたときの痛み
- 腕を後ろへ引いたときの痛み
- 肩を動かしにくい
- 肩の不安定感
- 投球感覚の変化
- 疲労感
などがあります。
球速が落ちることや投球感覚が変化することもありますが、
球速低下だけで肩障害と判断することはできません。
症状だけで病態を特定するのではなく、必要に応じて身体診察や画像検査を組み合わせます。[4]
6.成長期の野球肩は、大人と同じように考えない
小学生・中学生では、骨格がまだ成熟していません。
そのため、成人ではみられにくい成長期特有の障害を考える必要があります。
2025年の小児スポーツ肩障害reviewでは、小児・青年では成人とは異なる肩障害がみられること、成長期に特徴的な病態を鑑別に含める必要があることが整理されています。[7]
つまり、
「大人の野球肩をそのまま子どもに当てはめる」
のではなく、
「今どの成長段階にいるのか」
を考える必要があります。
7.Little League Shoulderとは?
Little League Shoulderは、投球に関連して生じる近位上腕骨の成長部の障害として知られています。[5]
2021年のsystematic reviewでは23研究、266人が検討され、平均年齢は12.8歳でした。
休養後に段階的に投球へ戻る方法が多く報告されていますが、最適な休養期間や競技復帰の基準は研究間で十分に統一されていません。[5]
したがって、
「Little League Shoulderなら○週間休めば必ず復帰できる」
とは言えません。
この記事では概要までにとどめ、症状、検査、治療、復帰、再発などの詳細は、今後のLittle League Shoulder専門記事で扱います。
8.日本の小学生野球選手でも肩痛は起こっている
小学生の肩痛について、日本の全国調査があります。
全国の小学生野球選手8,354人を対象とした研究では、前年に肩・肘痛がなかった7,894人について、1年間に、
- 肩痛:8.0%
- 肘痛:12.3%
- 肩または肘の痛み:17.4%
が報告されました。[1]
ここで注意したいのは、
8.0%=野球肩の診断率
ではないということです。
この研究が調べたのは、肩痛を経験した割合です。
したがって、
「小学生の8.0%が野球肩だった」
と解釈することはできません。
一方で、
小学生の野球選手では、肩痛が一定の頻度で生じている
ことを知るうえでは重要なデータです。
9.野球肩は「投げすぎ」だけで説明できない
肩の痛みが起こると、
「投げすぎたから」
と考えたくなるかもしれません。
しかし、野球肩を一つの要因だけで説明することはできません。
考える要素には、
- 投球量
- 投球強度
- 疲労
- 年齢
- 成長段階
- 競技歴
- 複数チームでの活動
- 身体機能
- 投球動作
- 過去の障害
などがあります。
若年スポーツ選手を対象にしたsystematic reviewでは、肩障害と筋力、可動性、肩甲骨機能、トレーニング負荷など複数の要因との関連が報告されています。[3]
したがって、
「何が一番悪かったのか」を一つに決めつける
より、
「どのような条件が重なっていたのか」を考える
方が、現在の研究結果に近い考え方です。
10.身体全体の使い方も確認する
投球は肩だけで行う動作ではありません。
下肢、骨盤、体幹、肩甲帯、肩、肘、手が連動してボールへ力を伝えます。
そのため、肩の症状がある選手では、必要に応じて身体全体の機能を確認することがあります。
一方で、
「下半身に問題があるから野球肩になる」
という単純な因果関係を示すことはできません。
日本の中学硬式野球選手47名を対象とした1年間の前向き研究では、14名が投球障害肩を発症し、非投球側下肢のHBDが高いことが発症と関連した指標として報告されています。[2]
ただし、これは一つの研究結果です。
したがって、
「股関節が硬いから野球肩になる」
と断定するのではなく、
身体全体の状態も評価する価値がある
という情報として捉えることが適切です。
11.「肩が硬い=野球肩」ではない
投球を続けている選手では、肩の可動域や骨形態などに競技への適応が生じることがあります。
2025年のsystematic reviewでは、投球肩では臨床的な内旋可動域が反対側より小さい傾向が報告される一方、その変化を単純に軟部組織の硬さだけで説明することには限界があるとされています。
さらに、収載研究の多くはプロ投手を対象としており、その知見を小学生へそのまま適用することはできません。[6]
したがって、
左右差がある=故障
とは限りません。
また、
肩が硬い=野球肩の原因
とも一律には言えません。
重要なのは、可動域の変化が、
- 痛み
- 筋力低下
- 動作の変化
- パフォーマンス低下
などとどのように関係しているかです。
12.画像に異常があっても、それだけで診断は決まらない
投球を長期間続けた選手では、肩や肘に構造的な適応がみられることがあります。
2025年の研究では、症状のないMinor League Baseball投手40人を対象に、肩と肘の慢性的な構造適応について検討されています。[9]
こうした研究からも、
画像上の変化があることだけで、その変化が痛みの原因だと決めることはできない
と考える必要があります。
画像検査の結果は、
- 症状
- 身体診察
- 投球歴
- 年齢
- 競技レベル
などと合わせて解釈します。
特に、プロ・大学生などを対象とした研究の画像所見を、小学生にそのまま当てはめないことが重要です。
13.肩の痛みがあるとき、投げ続けていい?
痛みを我慢した投球継続は避ける
肩の痛みが投球と繰り返し関連している場合、
「少しなら大丈夫」
「試合だけなら」
「投げ始めれば痛みがなくなる」
と自己判断して投球を続けることはおすすめできません。
特に成長期では成人とは異なる病態も考える必要があります。[7]
「投げられる」=「投げてよい」ではありません。
痛みがある場合には、まず投球負荷を止め、必要に応じて医療機関へ相談することが大切です。
14.こんな症状が続く場合は受診を考える
次のような症状が繰り返す場合は、整形外科などで評価を受けることをおすすめします。
- 投球するたびに肩が痛い
- 投球後も痛みが残る
- 翌日まで痛みが続く
- 痛みが徐々に強くなっている
- 腕を動かしにくい
- 日常生活でも痛い
- 肩の不安定感がある
- 痛みのため投球動作が変化した
- 成長期の選手で投球時痛を繰り返している
症状の評価では、投球歴や身体診察に加えて、必要に応じて可動域、筋力、肩甲骨運動などを確認します。[4]
15.何科を受診すればいい?
基本的には整形外科です。
可能であれば、
- スポーツ整形外科
- 小児・成長期のスポーツ障害を診療している医療機関
- 投球障害肩の診療経験がある医療機関
などを選択肢にするとよいでしょう。
受診時には、
- いつから痛いか
- どこが痛いか
- 投球中か投球後か
- 翌日にも残るか
- どのくらい投げているか
- これまでに同じ症状があったか
などを伝えると、診察の参考になります。
16.野球肩の検査
検査は、画像だけで診断するものではありません。
一般には、
問診
↓
身体診察
↓
必要に応じて画像検査
という流れで考えます。[4]
X線
主に骨や骨形態、成長部などの評価に用いられます。
超音波検査
腱や筋、周囲組織などを評価する際に用いられることがあります。
MRI
X線では評価しにくい軟部組織や骨髄などを評価する際に用いられることがあります。
ただし、
「MRIが最も詳しいから、全員MRI」
という考え方ではありません。
年齢、症状、身体診察、疑われる病態などを踏まえて、必要な検査が選択されます。
詳しくは**「野球肩の検査」**の記事で解説します。
17.野球肩の治療
野球肩の治療は、
- 病態
- 年齢
- 症状
- 病変の程度
- 競技レベル
などによって異なります。
そのため、
「野球肩なら○週間休めば治る」
という一律の治療期間を設定することはできません。
治療では、投球負荷の調整や必要に応じたリハビリテーションを行い、状態に応じて身体機能を回復させていきます。[8]
治療・リハビリの詳細については、**「野球肩の治療・リハビリの流れ」**で解説します。
18.リハビリでは肩だけを見ない
投球障害のリハビリテーションでは、
- 肩
- 肩甲帯
- 肘
- 体幹
- 骨盤
- 股関節
- 下肢
などを必要に応じて評価します。
ただし、
「全身を鍛えれば野球肩が治る」
という意味ではありません。
重要なのは、
必要な機能を評価し、その状態に応じて介入する
ことです。[8]
19.野球肩の予防
野球肩の予防を考えるとき、一つのストレッチや筋力トレーニングだけに頼ることは適切ではありません。
考える要素として、
投球負荷
- 投球数
- 投球強度
- 連投
- 年間投球量
疲労・休養
- 腕の疲労
- 全身疲労
- 休養
身体機能
- 可動性
- 筋力
- 持久力
- 肩甲帯
- 体幹
- 下肢
競技環境
- 複数チーム
- 試合数
- 練習量
- 年齢
- 成長段階
などがあります。
2024年のscoping reviewでは、ストレッチや筋力トレーニングなど複数の予防介入が研究されていますが、
研究間で対象者や介入内容などに違いがあり、一つの方法だけで野球肩を予防できることが確立しているわけではありません。[10]
具体的な予防方法については、**「野球肩の予防方法」**で詳しく解説します。
20.運動連鎖をどう考える?
投球では、下肢、体幹、肩甲帯、肩、肘、手が連動して動きます。
そのため、肩の状態だけを見るのではなく、必要に応じて身体全体の動きを評価することには意味があります。
一方で、
「下半身の問題があれば野球肩になる」
という単純な因果関係ではありません。
運動連鎖は、
「どこに負荷が集中している可能性があるのかを考えるための評価の枠組み」
として捉えることが大切です。
21.投球肩の「適応」と「障害」を分けて考える
野球を長期間続けている選手には、
- 可動域
- 筋力
- 骨形態
- 軟部組織
などに競技への適応が生じることがあります。[6]
そのため、
「左右差がある」
「MRIに変化がある」
という事実だけで、直ちに「故障」と判断することはできません。
一方で、適応があることを理由に、痛みや機能障害を無視してよいという意味でもありません。
重要なのは、
症状+身体診察+画像+投球歴+競技特性
を組み合わせて考えることです。
22.投球復帰は「痛みがなくなった日」から始まるとは限らない
痛みがなくなることは重要な変化です。
しかし、それだけで全力投球へ戻れるとは限りません。
投球復帰では、
- 症状
- 可動域
- 筋力
- 持久力
- パワー
- 投球耐性
- 病態
23.投球復帰の基本的な考え方
病態や医療者の判断によって異なりますが、一般的なイメージとしては、
症状・病態の評価
↓
身体機能の回復
↓
軽い投球
↓
距離・強度・投球量を徐々に調整
↓
通常練習
↓
試合復帰
という段階を踏みます。[11]
ただし、
これはすべての野球肩に共通する固定スケジュールではありません。
Little League Shoulderについても、休養期間や復帰基準には研究間のばらつきがあります。[5]
実際の投球復帰については、診療を担当する医療者の指示を優先してください。
詳しくは、**「野球肩から投球復帰するまでの考え方」**で解説します。
24.小学生・中学生・高校生では何が違う?
小学生
骨格が発達途中であることを考慮する必要があります。
Little League Shoulderなど、成長期に特徴的な病態もあります。[5][7]
また、日本の全国調査でも小学生野球選手の肩痛が一定の頻度で報告されています。[1]
中学生
成長と競技負荷の変化が重なる時期です。
硬式球への移行や練習・試合量の変化など、競技環境が変わることもあります。
特定の身体機能だけを原因と決めつけるのではなく、成長段階と競技負荷を合わせて考えることが重要です。
高校生
競技レベルや投球強度が高くなる選手が増える一方、長期間の投球による身体的適応も蓄積します。
ただし、プロ投手を中心とした研究結果を高校生へそのまま適用することはできません。[6]
25.選手・保護者・指導者ができること
選手
- 肩の痛みを隠さない
- 痛みを我慢して投げない
- 疲労した状態で無理をしない
- 投球量を把握する
- 投球後や翌日の状態も確認する
保護者
- 「成長期だから仕方ない」と決めつけない
- 痛みを言いやすい環境をつくる
- 投球数だけでなく疲労や休養も確認する
- 痛みが繰り返す場合は受診を考える
指導者
- 投球量を把握する
- 疲労を確認する
- 複数チームでの活動も考慮する
- 痛みを訴えた選手に投球継続を求めない
- 「投げられる=投げてよい」と考えない
26.野球肩について「分かっていること」と「まだ分からないこと」
| テーマ | 現在の整理 |
|---|---|
| 野球肩 | 複数の肩の問題をまとめて扱う言葉 |
| 成長期 | 成人とは異なる病態を考える必要がある |
| Little League Shoulder | 成長期の代表的な投球障害の一つ |
| 肩痛 | 症状であり、病名そのものではない |
| 痛む場所 | 重要だが、場所だけでは診断できない |
| 投球phase | 症状評価の重要な情報 |
| 投球量 | 重要な管理対象の一つ |
| 疲労 | 評価すべき重要な要素 |
| 可動域 | 競技適応も含めて評価する必要がある |
| 左右差 | 左右差だけで障害とは判断できない |
| 肩甲骨機能 | 評価対象の一つだが、単独原因とはいえない |
| 運動連鎖 | 身体全体を評価するための枠組み |
| 予防 | 複数の方法が研究されているが、一つで保証されない |
| 画像所見 | 症状や身体診察と合わせて解釈する |
| 復帰 | 一律の日数ではなく、病態に応じて考える |
| LLS復帰 | 研究間で基準にばらつきがある |
医学では、
「何が分かっているか」だけでなく、「どこから先はまだ確実とは言えないか」
を明確にすることも重要です。
27.📝 筆者の経験から|「痛くなってから身体を知った」
私自身、子どもの頃に肩を痛め、思うように投げられなくなった経験があります。
当時は、
「なぜ痛いのか」
「どこに問題があるのか」
「休んだ方がいいのか」
ということを深く考える知識がありませんでした。
その後、柔道整復師・鍼灸師として身体の仕組みを学び、現在は施術や少年野球の現場にも関わるようになって、当時とは違う視点で子どもたちの身体を見るようになりました。
今、大切だと感じているのは、
「何が悪かったのか」を一つ探すことではなく、「今、どのような状態なのか」を確認すること
です。
痛みを我慢することが当たり前になってしまうと、子ども自身も、
「これくらいなら大丈夫」
と考えるようになるかもしれません。
だからこそ、
痛みがあったら言っていい。
休むことは悪いことではない。
身体の状態を知ることも野球の一部。
そう伝えられる環境をつくることが、保護者や指導者にできることの一つだと思っています。
※この章は筆者自身の経験・現場経験に基づくものであり、医学的研究結果を示すものではありません。
よくある質問
Q1.肩が少し痛いだけでも病院に行っていいですか?
はい。
投球時や投球後に繰り返し痛む、翌日まで残る、腕を動かしにくいなどの変化があれば、整形外科への相談を検討してください。
Q2.肩が硬いから野球肩なのでしょうか?
そうとは限りません。
投球を続けることで可動域などに競技への適応が生じることがあります。[6]
左右差や可動域の変化だけで、野球肩と判断することはできません。
Q3.フォームを直せば野球肩は防げますか?
フォームや身体の使い方は評価する要素の一つですが、フォームだけを野球肩の原因と断定することはできません。
投球量、疲労、成長段階、身体機能、競技環境なども合わせて考える必要があります。[3]
Q4.MRIを撮れば痛みの原因が分かりますか?
MRIは重要な画像検査の一つですが、MRIだけで痛みの原因を決められるとは限りません。
症状、身体診察、投球歴、年齢、競技特性などと合わせて解釈します。
Q5.Little League Shoulderは何週間休めば治りますか?
一律の期間はありません。
2021年のsystematic reviewでも、休養期間や競技復帰の基準には研究間のばらつきがあります。[5]
Q6.痛みがなくなったら、すぐ投球復帰できますか?
必ずしもそうではありません。
可動域、筋力、持久力、投球耐性などを確認し、段階的に投球負荷を戻すことが基本的な考え方です。[8][11]
まとめ
野球肩について、特に知っておいてほしいことは次のとおりです。
- 野球肩は一つの病気の名前ではなく、投球に関連するさまざまな肩の問題をまとめて考える言葉です。
- 小学生・中学生などの成長期では、成人とは異なる病態を考える必要があります。
- 「どこが痛いか」だけでなく、「いつ痛いか」も重要です。
- 肩痛と野球肩は同じ意味ではありません。
- 「投げすぎ」「フォームが悪い」「肩が硬い」など、一つの要因だけで原因を決めつけないことが大切です。
- 投球数、疲労、休養、身体機能、成長段階、競技環境などを総合的に考えます。
- 画像に変化があっても、それだけで痛みの原因や障害の有無を決めることはできません。
- 痛みを我慢して投げ続けず、必要に応じて医療機関へ相談します。
- 投球復帰は「痛みがなくなった日」を基準に一律で決めるのではなく、状態を確認しながら段階的に進めます。
そして、野球を続ける子どもにとって最も大切なのは、
「痛くても投げられるか」ではなく、「今の身体が投げてよい状態なのか」を考えること
です。
肩の痛みをきっかけに、身体の状態を知り、無理のない方法で野球を続ける。
そのための情報として、このサイトを活用していただければと思います。
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Little League Shoulderを詳しく知りたい方へ
Little League Shoulderとは?症状・検査・治療・復帰まで解説
参考文献・情報源
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Shoulder and elbow pain in elementary school baseball players: The results from a nation-wide survey in Japan.
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DOI: 10.1016/j.jos.2017.03.016.
PMID: 28478963.
日本全国の小学生野球選手8,354人を対象とした研究です。前年に肩・肘痛がなかった7,894人について、1年間の肩痛8.0%、肘痛12.3%、肩または肘の痛み17.4%が報告されています。
[2]伊計拓真,坂槙航,筒井俊春,鳥居俊.2024
中学野球選手における投球障害肩発症に関連する四肢の可動性および筋タイトネス:1年間の前向きコホート研究.
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中学硬式野球選手47名を1年間追跡し、14名が投球障害肩を発症。非投球側下肢HBD高値が発症と関連した指標として報告されています。
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投球選手の肩・肘リハビリテーションについて、mobility、strength、endurance、powerなどを含む多段階の考え方を扱っています。
[9]Paul RW, et al. 2025
Chronic Structural Adaptations of the Shoulder and Elbow Are Correlated in Professional Baseball Pitchers.
The American Journal of Sports Medicine. 2025;53(4):944-951.
DOI: 10.1177/03635465251317509.
PMID: 39924652.
症状のないMinor League Baseball投手40人を対象に、肩・肘の慢性的な構造適応を検討した研究です。
[10]Karasuyama M, et al. 2024
Preventive interventions for throwing injuries in baseball players: a scoping review.
Journal of Shoulder and Elbow Surgery. 2024;33(8):e451-e458.
DOI: 10.1016/j.jse.2023.12.008.
PMID: 38311104.
野球選手の投球障害予防介入について、ストレッチ、筋力トレーニング、可動性など複数の介入を整理したscoping reviewです。研究間の違いも大きく、単一の予防方法で効果が保証されているわけではありません。
[11]Da Silva AZ, Connelly JW, Chalmers PN. 2025
Return to Play Throwing Programs.
Clinics in Sports Medicine. 2025;44(2):273-289.
DOI: 10.1016/j.csm.2024.05.005.
PMID: 40021256.
投球復帰プログラムについて、投球開始前の基準確認と段階的なthrowing programを扱っています。
公式情報
日本臨床整形外科学会「野球肩」
野球肩を考える際の一般的な医学情報、症状や受診についての基礎情報として参照します。



