成長期の野球選手に腰痛が続くと、
「腰椎分離症ではないか?」
と心配になることがあります。
腰椎分離症は、腰椎の後方にあるpars interarticularis(椎弓の一部)に生じる骨性病変です。小児・青年期では、スポーツなどによる繰り返しの負荷と関連して生じる疲労性の骨病変として考えられています。
小児腰椎分離症についての構造化レビューでは、pars interarticularisの後天的な骨折として整理されています。[1]
ただし、
腰痛がある=腰椎分離症
ではありません。
日本整形外科学会も、腰痛にはさまざまな原因があり、腰椎分離症はその一つとして位置づけています。[2]
この記事では、野球選手と保護者が知っておきたい腰椎分離症について、
「何が起きているのか」
「なぜ成長期の選手で問題になるのか」
「どんな症状があるのか」
「腰痛とどう区別するのか」
という順番で整理します。
腰椎分離症とは?
腰椎後方のpars interarticularisに生じる病変
腰椎分離症は、腰椎の後方にあるpars interarticularisという部分に生じる骨性病変です。
成長期では、1回の大きな外傷というよりも、スポーツなどによる繰り返しの負荷と関連して発症することがあります。
Scoliosis Research Societyのエビデンスレビューでは、小児腰椎分離症をpars interarticularisの後天的な骨折として整理しています。[1]
腰椎分離症という名前から、
「腰の骨が完全に折れてしまったの?」
と思うかもしれません。
ここでいう病変は、腰椎全体が大きく折れるという意味ではありません。
腰椎後方の特定の部分に、疲労性の骨病変が生じる状態
と考えると分かりやすいでしょう。
「骨折」と聞いても、1回の外傷とは限らない
成長期の腰椎分離症では、転倒や衝突など1回の外傷によって突然生じるというより、腰を反らす・ひねるなどの動作が繰り返されることとの関連が知られています。
日本整形外科学会も、ジャンプや腰の回旋を繰り返すスポーツ活動との関連を説明しています。[3]
そのため、選手本人が、
「大きなケガをした覚えがない」
としても、腰椎分離症が生じることはあります。
ただし、
「野球をしているから必ず腰椎分離症になる」
という意味ではありません。
競技内容だけでなく、年齢や症状、身体の状態などを含めて評価する必要があります。
なぜ成長期の野球選手で問題になるの?
成長期は、身体が大きく変化する時期です。
小学生から中学生、高校生へ進む過程では、身長や体格だけでなく、身体の使い方も変化していきます。
日本整形外科学会では、腰椎分離症は10~15歳頃から腰痛として生じることがあり、ジャンプや腰の回旋を繰り返すスポーツとの関連が説明されています。[3]
ただし、
「成長期だから腰椎分離症になる」
という単純な意味ではありません。
成長期の選手では、年齢や発達段階と競技活動の両方を考慮して腰痛をみることが重要ということです。
野球では、どんな動作が関係する?
野球では、
- 投球
- 送球
- 打撃
- 守備
- 走塁
など、身体をひねったり、伸ばしたりする動作を繰り返します。
日本整形外科学会も、腰を反らしたり回したりする動作を繰り返すスポーツとの関連を説明しています。[3]
一方で、
「このフォームが腰椎分離症の原因」
と一つの動作だけで決めることはできません。
野球は左右差のある競技でもありますが、左右差と腰椎分離症の関係についても、選手のポジションや投球側などによって結果が異なります。
中高生野球選手85人を対象とした研究では、投手では投球側と反対側に病変が多い傾向が報告された一方、野手では明確な左右差は認められませんでした。
これは関連を示した研究であり、特定の動作が病変を引き起こすことを証明したものではありません。[4]
野球選手の腰椎分離症では、どんな症状が出る?
腰痛が主な症状です
腰椎分離症では、
- 腰の痛み
- お尻や太ももの痛み
- 腰を反らしたときの痛み
などがみられることがあります。[3]
特に腰を後ろへ反らしたときに痛みが強くなることは、腰椎分離症でみられる症状の一つです。[3]
ただし、
この症状があれば腰椎分離症
と判断できるわけではありません。
成長期の野球選手では、こんな特徴が研究されている
男子中学生・高校生野球選手171人を対象に、MRIで早期腰椎分離症を調べた研究では、
- 腰痛が4週間以上続く
- 腰痛によって走ることに支障がある
- 腰痛が片側から始まった
- 棘突起に圧痛がある
などと、早期腰椎分離症との関連が報告されました。[5]
重要なのは、
これらは腰椎分離症を考える際の手がかりの一例であり、症状だけで診断できるわけではない
ということです。
実際、若いアスリートの腰椎分離症では、臨床症状や身体診察だけで他の腰痛原因と十分に区別できないことが報告されています。[6]
したがって、
「4週間痛いから腰椎分離症」
と自己判断することはできません。
「腰痛=腰椎分離症」ではない
これは、成長期の野球選手にとってとても大切なポイントです。
腰痛には、
- 筋肉や関節に由来するもの
- 椎間板に関連するもの
- 腰椎分離症
- 外傷
- 炎症や感染など
さまざまな原因があります。日本整形外科学会も、腰痛には複数の病態があると説明しています。[2]
そのため、
「野球選手が腰を痛めた=腰椎分離症」
とは考えません。
逆に、
「腰椎分離症がある=必ず腰痛がある」
とも限りません。
画像上の分離と、現在の症状が必ず一致するわけではないためです。
この点は、腰椎分離症を理解するうえで非常に重要です。
腰椎分離症は早期・進行期・終末期で何が違う?
腰椎分離症は、病変の状態によって大きく、
早期
進行期
終末期
などに分けて考えられます。
小児・青年の研究では、早期の病変ほど骨癒合が得られやすく、進行した病変では骨癒合が得られにくい傾向が報告されています。[7]
ただし、
「早期なら必ず治る」
という意味ではありません。
Sairyoらの研究は23人・41病変を対象とした小規模研究で、保存治療後の骨癒合率は早期病変87%、進行期32%、終末期0%でした。[7]
別の小児研究でも、病変の段階は骨癒合を左右する重要な要素として報告されています。[8]
したがって、
腰椎分離症は「あるか・ないか」だけではなく、病変がどの段階にあるのかを見ることも重要
と考えられます。
詳しい病期については、次の記事で解説します。
→ 腰椎分離症の初期・進行期・終末期
腰椎分離症は自然に治る?
早期の病変では骨癒合する可能性があります
成長期の腰椎分離症では、早期病変の一部で骨癒合が得られることが報告されています。[7][8]
一方で、病変が進行した場合には骨癒合が得られにくくなる傾向があります。[7]
ただし、ここでいう「治る」は、
痛みがなくなる
ことと、
画像上で骨癒合する
ことが必ず同じという意味ではありません。
また、すべての選手が同じ経過をたどるわけでもありません。
そのため、腰椎分離症では症状と画像所見を別々に考えながら、全体として評価することが重要です。
腰椎分離症と「分離すべり症」は何が違う?
名前が似ているため、混同されやすい言葉です。
腰椎分離症
腰椎後方のpars interarticularisに分離・骨性病変がある状態です。
腰椎分離すべり症
腰椎分離症に関連して、椎体の前方へのずれ(すべり)が生じた状態です。
つまり、
分離症=分離部の病変
分離すべり症=分離に関連して椎体のすべりが生じた状態
と考えると分かりやすいでしょう。
日本整形外科学会でも、腰椎分離症が原因となって、その後に分離すべり症へ進行する場合があると説明しています。[3]
大切なのは、
腰椎分離症がすべて分離すべり症へ進行するわけではない
ということです。
腰椎分離症が疑われたら、何を調べる?
腰椎分離症の評価では、症状や身体診察に加えて、必要に応じて画像検査を行います。
小児腰椎分離症の画像診断をまとめたsystematic reviewでは、X線、MRI、CTなどが検討されています。MRIは早期診断で利用される一方、CTは骨性変化の評価に利用されるなど、それぞれ役割があります。[9]
ただし、
「腰椎分離症なら、必ずこの検査をこの順番で行う」
という固定的なルールではありません。
症状、診察、年齢、病変が疑われる状態などによって検査方法は変わります。
X線・MRI・CTの違いについては、検査の記事で詳しく解説します。
→ 野球選手の腰痛の検査|X線・MRI・CTの違い
腰椎分離症になったら、野球は続けられる?
腰椎分離症と診断されると、
「もう野球はできないのでは?」
と心配になるかもしれません。
しかし、青年アスリートの腰椎分離症では、保存的治療後に高い競技復帰率が報告されています。
メタ解析では、症候性腰椎分離症で椎体すべりを伴わない青年アスリートの保存療法後の競技復帰率は92.2%でした。[10]
また、別のsystematic reviewでは、保存的治療後の競技復帰率は92%、受傷前レベルへの復帰は89%と報告されています。[11]
ただし、
「腰椎分離症なら全員が同じ期間で復帰できる」
という意味ではありません。
病変の状態、症状、治療内容などによって経過は異なります。
治療やリハビリについては、
→ 野球選手の腰痛の治療とリハビリ
競技復帰については、
→ 野球選手の腰痛から競技復帰するまで
で詳しく解説します。
筆者の臨床での経験
接骨院では、腰椎分離症と診断されて相談に来る選手が多くいます。
臨床現場で腰椎分離症の選手をみていると、私自身は中高生の野球選手に多いという印象があります。
また、痛みの訴えは腰だけとは限らず、仙腸関節周辺など、骨盤付近の痛みを併発しているケースも経験します。
身体の動きを確認していくと、胸椎の可動性が低下している選手も少なくありません。
ただし、これはあくまで私自身が日々の臨床で感じている傾向であり、医学的な統計や研究結果を示したものではありません。
腰椎分離症を考える際には、腰部だけに注目するのではなく、骨盤や胸椎を含めた身体全体の動きにも目を向けることが大切だと、臨床を通して感じています。
腰椎分離症について知っておきたい5つのこと
1.腰椎後方のpars interarticularisに生じる病変
成長期では、スポーツによる繰り返しの負荷と関連して生じることがあります。[1]
2.成長期の野球選手では重要な病態
10~15歳頃から腰痛として発症することがあり、腰を反らす・回す動作を繰り返すスポーツとの関連が説明されています。[3]
3.腰痛=腰椎分離症ではない
腰痛にはさまざまな原因があり、症状だけで腰椎分離症と診断することはできません。[2][6]
4.病変の段階によって経過が異なる
早期病変では骨癒合する可能性がありますが、すべてが同じ経過をたどるわけではありません。[7][8]
5.腰椎分離症=野球を続けられない、ではない
保存的治療後に高い競技復帰率が報告されています。[10][11]
まとめ
腰椎分離症は、腰椎後方のpars interarticularisに生じる骨性病変です。
成長期では、スポーツなどによる繰り返しの負荷との関連が知られており、野球選手では特に知っておきたい病態の一つです。[1][3]
ただし、
腰痛=腰椎分離症
ではありません。
腰痛にはさまざまな原因があり、腰椎分離症についても症状だけで判断することはできません。[[2][6]
また、腰椎分離症がある場合でも、病変の状態や症状は一人ひとり異なります。
早期病変では骨癒合する可能性が報告されている一方、進行した病変では骨癒合が得られにくくなる傾向があります。[7][8]
そのため、腰痛が続いている成長期の野球選手では、
「フォームが悪いだけ」
「成長痛だろう」
と自己判断するのではなく、腰椎分離症を含めて適切に評価することが重要です。
次に読む記事
腰椎分離症の病期を詳しく知りたい方
腰椎分離症の初期・進行期・終末期
→ 腰椎分離症がどのように進行し、各段階で何が違うのかを解説します。
腰痛の原因を知りたい方
→ 練習量・競技動作・成長期・身体機能など、腰痛を考えるための視点を整理しています。
腰椎分離症の検査を知りたい方
→ 腰椎分離症を含む腰痛の画像検査について解説します。
治療・リハビリを知りたい方
野球選手の腰痛の治療とリハビリ
参考文献
[1] Scoliosis Research Society Evidence-Based Medicine Committee. Current Evidence Regarding the Etiology, Prevalence, Natural History, and Prognosis of Pediatric Lumbar Spondylolysis: A Report from the Scoliosis Research Society Evidence-Based Medicine Committee. J Spine Surg / related publication. PMID: 27927448. DOI: 10.1016/j.jspd.2014.06.005.
[2] 日本整形外科学会.「腰痛」.
[3] 日本整形外科学会.「腰椎分離症・分離すべり症」.
[4] Teruya S, et al. Characteristics of Lumbar Spondylolysis in Adolescent Baseball Players: Relationship between the Laterality of Lumbar Spondylolysis and the Throwing or Batting Side. Asian Spine J. 2024;18(2):260-264. DOI: 10.31616/asj.2023.0360. PMID: 38650091.
[5] Kato K, Otoshi K, Kobayashi K, et al. Clinical characteristics of early-stage lumbar spondylolysis detected by magnetic resonance imaging in male adolescent baseball players. J Orthop Sci. 2024;29(1):35-41. DOI: 10.1016/j.jos.2022.10.014. PMID: 36396506.
[6] Diagnosis of radiographically occult lumbar spondylolysis in young athletes by magnetic resonance imaging. Cohort study. PMID: 23136176.
[7] Sairyo K, Sakai T, Yasui N. Conservative treatment of lumbar spondylolysis in childhood and adolescence: the radiological signs which predict healing. J Bone Joint Surg Br. 2009;91(2):206-209. DOI: 10.1302/0301-620X.91B2.21256. PMID: 19190055.
[8] Fujii K, Katoh S, Sairyo K, et al. Union of defects in the pars interarticularis of the lumbar spine in children and adolescents. The radiological outcome after conservative treatment. J Bone Joint Surg Br. 2004;86(2):225-231. DOI: 10.1302/0301-620x.86b2.14339. PMID: 15046438.
[9] Tofte JN, CarlLee TL, Holte AJ, Sitton SE, Weinstein SL. Imaging Pediatric Spondylolysis: A Systematic Review. Spine. 2017;42(10):777-782. DOI: 10.1097/BRS.0000000000001912. PMID: 27669047.
[10] El Rassi G, et al. Return to Play in Adolescent Athletes With Symptomatic Spondylolysis Without Listhesis: A Meta-Analysis. Clin Spine Surg. 2018. DOI: 10.1177/2192568217734520. PMID: 29662750.
[11] Grazina R, et al. Return to play after conservative and surgical treatment in athletes with spondylolysis: A systematic review. Phys Ther Sport. 2019;37:34-43. DOI: 10.1016/j.ptsp.2019.02.005. PMID: 30826586.
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