「野球をしていて腰が痛い。でも、これくらいなら大丈夫?」
そんなふうに迷う選手や保護者は少なくありません。
特に成長期の野球選手では、「成長期だから仕方ない」「練習の疲れだろう」と考えてしまうこともあります。
しかし、腰痛は一つの病気を意味する言葉ではありません。
腰痛の背景には、筋・筋膜に関連する痛み、椎間板に関連する障害、腰椎分離症、成長期にみられる病態、神経症状を伴う病態など、さまざまな可能性があります。
そのため、
「腰が痛い=腰椎分離症」
と考えることはできません。
大切なのは、腰痛を感じたときに、
- どこが痛いのか
- いつ痛いのか
- 何をすると痛いのか
- どのくらい続いているのか
を整理することです。
この記事では、野球選手の腰痛でみられる症状や注意したい変化を整理しながら、症状だけで病名を自己判断しないためのポイントを解説します。
※この記事は一般的な医学・スポーツ医学情報を提供するもので、個別の診断や治療を行うものではありません。
腰痛があるとき、まず確認したい4つ
腰痛を考えるときは、「腰が痛い」という一つの情報だけではなく、
痛みの場所、発症時期、痛みを悪化させる動作、症状の経過
まずは、次の4つを確認してみましょう。
① どこが痛い?
腰の中央なのか、片側なのか、お尻まで痛むのか。
痛みの場所を確認します。
② いつ痛い?
投球中なのか、打撃中なのか、走っているときなのか。
それとも練習後や翌日にも痛みが残るのかを確認します。
③ 何をすると痛い?
腰を反る、ひねる、前に曲げる、走る、投げる、打つなど、どの動作で痛みが出るのかを確認します。
④ どのくらい続いている?
今日からなのか、数日続いているのか、何週間も繰り返しているのか。
「いつから始まり、どのように変化しているか」も大切な情報です。
これらを整理しておくと、自分の状態を把握しやすくなるだけでなく、医療機関で相談するときにも症状を伝えやすくなります。[2][3]
腰のどこが痛い?
腰痛では、痛む場所も確認しておきましょう。
ただし、痛む場所だけで腰痛の原因を決めることはできません。
腰の中央が痛い
腰の真ん中あたりに痛みを感じるケースです。
腰の中央が痛いからといって、特定の病気と決めつけることはできません。
「いつから痛いのか」「どんな動作で痛むのか」などと合わせて確認しましょう。
腰の片側が痛い
右または左など、腰の片側を中心に痛むケースです。
成長期の男性野球選手171人を対象とした研究では、腰痛が片側から始まることが、MRIで確認された早期腰椎分離症と関連していました。[4]
ただし、
片側が痛い=腰椎分離症
という意味ではありません。
片側の痛みは、腰痛を評価するときの一つの情報として捉える必要があります。
押すと限局的に痛い
腰の一部分を押したときに、はっきりと痛みを感じることがあります。
同じ研究では、棘突起部の圧痛も早期腰椎分離症と関連していました。[4]
ただし、圧痛があれば腰椎分離症と診断できるわけではありません。
お尻まで痛い
腰だけではなく、お尻の周辺まで痛みを感じることがあります。
この場合も、痛みの場所だけで原因を判断することはできません。
腰からお尻までなのか、さらに脚へ広がっているのかなど、痛みの範囲を確認しておきましょう。
脚に痛みが広がる
腰からお尻、太もも、ふくらはぎなどに痛みが広がる場合があります。
痛みだけでなく、
- しびれ
- 力が入りにくい
- 感覚がおかしい
などの症状がないかも確認しましょう。
腰痛にこのような症状を伴う場合は、腰の痛みだけとして様子を見るのではなく、医療機関で相談することが大切です。[2][3]
どんな動作で腰が痛む?
腰痛は、特定の動作をしたときに強くなることがあります。
腰を反ると痛い
「腰を反らすと痛い」という症状は、成長期の野球選手では確認しておきたい情報の一つです。
一方で、
腰を反ると痛い=腰椎分離症
ではありません。
腰を反る動作で痛みが出るかどうかだけでは、腰痛の原因を確定できません。
腰椎分離症の診断については、病歴や身体診察だけで確実に判断できる十分な根拠は確立していません。[5][6]
腰をひねると痛い
野球では投球や打撃など、体幹をひねる動作が多くあります。
そのため、ひねる動作で痛みが出るかどうかは、症状を整理するうえで確認しておきたいポイントです。
ただし、これも特定の病名を判断するための情報ではありません。
前に曲げると痛い
前屈など、腰を曲げる動作で痛みが出る場合もあります。
「反ると痛い」「曲げると痛い」という動作だけで原因を決めず、いつから痛むのか、ほかの動作でも痛むのかなどを合わせて確認しましょう。
走ると痛い
「走ると腰が痛い」という症状も、野球選手では重要な情報です。
中高生の男性野球選手171人を対象とした研究では、腰痛によって走ることに支障があることが、MRIで確認された早期腰椎分離症と関連していました。[4]
ただし、これも腰椎分離症を確定する症状ではありません。
投球すると痛い
投球動作で腰が痛む場合は、
- 投げている最中だけ痛いのか
- 投球数が増えると痛くなるのか
- 投球後にも痛みが残るのか
- 翌日にも痛みがあるのか
などを確認してみましょう。
打撃すると痛い
打撃では体幹の回旋などが加わります。
そのため、「打つと痛い」という情報だけでなく、
どの動作で、どのタイミングで、どの程度痛むのか
を整理することが大切です。
いつ腰が痛い?
同じ「腰痛」でも、痛みが出るタイミングによって確認すべき情報が変わります。
投球中・打撃中に痛い
競技動作そのもので痛みが出るのかを確認します。
練習後に痛い
練習中よりも、練習が終わってから痛みが強くなる場合があります。
翌日まで痛みが残る
練習後だけでなく、翌日の生活や練習にも影響する場合は、その経過を記録しておきましょう。
安静にしていても痛い
動作時だけでなく、安静にしていても痛みが続く場合は、ほかの症状がないかも含めて確認する必要があります。
アスリートの腰痛では、年齢、病歴、身体診察、注意すべき症状、競技特性などを踏まえて評価することが基本です。[2]
腰痛の「痛み方」と経過も確認しよう
腰痛の感じ方には個人差があります。
「ズキッとする」「重だるい」「鈍い」など、痛みの表現はさまざまです。
ただし、痛みの表現だけから原因を判断することはできません。
それよりも、
- 急に痛くなったのか
- 徐々に痛くなったのか
- 動いたときだけ痛いのか
- 痛みが少しずつ強くなっているのか
- 痛みを繰り返しているのか
- しびれや力の入りにくさがあるのか
といった情報を整理しておくことが大切です。[2][3]
特に、
「休むと少し楽になるけれど、練習を再開するとまた痛くなる」
という場合には、痛みが繰り返していること自体が重要な情報になります。
成長期だから「成長痛」と決めつけない
成長期の野球選手にも腰痛は起こります。
思春期アスリートの腰痛は珍しいものではなく、系統的レビューでは、過去12か月の腰痛有病率は統合すると42%と推定されています。
ただし、研究によって腰痛の定義や調査方法が異なり、研究間のばらつきも大きいことが示されています。[1]
そのため、「成長期だから腰が痛いのは普通」
と一律に考えるのも、「成長期の腰痛はすべて危険」
と考えるのも適切ではありません。
大切なのは、
- どのくらい続いているか
- 繰り返しているか
- 痛みが強くなっているか
- 練習や試合に影響しているか
- ほかの症状を伴っているか
を確認することです。
腰痛で「注意したい変化」
次のような変化がある場合は、腰痛の経過を一度立ち止まって確認してみましょう。
痛みを繰り返している
一度だけではなく、練習するたびに腰が痛くなる。
なかなか改善しない
休んでいる間は少し楽になっても、練習を再開するとまた痛くなる。
徐々に痛みが強くなっている
以前より痛みが強くなったり、痛む時間が長くなったりしている。
走ると毎回痛む
走ることによって腰痛が繰り返し出る。
投球・打撃のたびに痛む
競技動作を行うたびに痛みが出る。
痛みをかばって動きが変わっている
腰をかばうために、走り方や投げ方、打ち方などが変わっている。
練習後や翌日にも痛みが残る
競技中だけではなく、練習後や翌日まで痛みが続いている。
これらは特定の病気を意味するサインではありません。
しかし、腰痛の状態を評価するときに重要な情報になります。[2][4]
腰椎分離症と関連する症状は?
成長期の野球選手の腰痛を考えるとき、腰椎分離症は重要な病態の一つです。
腰椎分離症は、腰椎の**椎弓にある関節突起間部(pars interarticularis)**に生じる骨性の障害で、成長期のスポーツ選手では疲労骨折として捉えられることがあります。[7]
ただし、
野球選手の腰痛=腰椎分離症
ではありません。
中学生・高校生の男性野球選手171人を対象とした研究では、MRIで確認された早期腰椎分離症について、
- 腰痛が4週間以上続いている
- 腰痛によって走ることに支障がある
- 腰痛が片側から始まった
- 棘突起部に圧痛がある
といった特徴との関連が報告されています。[4]
特に多変量解析では、腰痛4週間以上、走行時の支障、片側からの発症、棘突起部の圧痛が、それぞれ早期腰椎分離症と有意に関連していました。[4]
ただし、ここで重要なのは、
これらの症状があれば腰椎分離症と診断できるわけではない
ということです。
この研究は、男性の中高生野球選手を対象に、MRIで確認された早期腰椎分離症との関連を調べた研究です。
したがって、女子選手、成人選手、ほかの競技の選手に、その結果をそのまま当てはめることはできません。
腰椎分離症について詳しく知りたい方は、以下の記事で病態・病期・検査などを詳しく解説しています。
→ 野球選手の腰椎分離症とは?
症状だけでは腰痛の原因を決められない
ここは、この記事で特に覚えておいてほしいポイントです。
「片側が痛い」
「腰を反ると痛い」
「走ると痛い」
「腰を押すと痛い」
こうした症状は、腰痛を評価するときの重要な情報です。
しかし、
一つの症状だけで病名を決めることはできません。
8~16歳の小児・思春期アスリート174人を対象とした研究では、臨床的な症状や所見と、画像検査による最終診断との間に一貫した関連は確認されませんでした。[5]
また、アスリートの腰痛における腰椎分離症・腰椎すべり症の診断について検討した系統的レビューでは、患者の病歴だけから腰椎分離症を診断するための十分な根拠はなく、
腰椎分離症を診断するための身体テストについても明確な診断的有用性は示されませんでした。[6]
つまり、「この症状だから、この病気」と自己判断するのではなく、
「このような症状があるので、一度状態を評価してもらおう」
と考えることが大切です。
こんなときは医療機関への相談を
腰痛があるからといって、すべてのケースで直ちに医療機関を受診しなければならないわけではありません。
一方で、次のような場合には、医療機関への相談を考えましょう。
- 腰痛を繰り返している
- 痛みが長く続いている
- 痛みが徐々に強くなっている
- 練習や試合に支障が出ている
- 脚の痛み・しびれ・力の入りにくさがある
- 強い外傷のあとから痛みが出た
- 発熱や体重減少などを伴っている
- 夜間にも痛みが続く
若年アスリートの腰痛では、神経症状だけでなく、発熱、全身状態の変化、体重減少、夜間痛なども評価時に確認すべき情報とされています。[2][3][5]
ただし、ここでは「どの症状なら、いつ、どの医療機関を受診するか」までは詳しく扱いません。
「病院に行った方がいいのか」「もう少し様子を見てもいいのか」を詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
→ 野球選手の腰痛で病院に行く目安
腰痛があるとき、練習を続けていい?
腰痛があるからといって、すべての運動を一律に禁止するとは限りません。
一方で、
「痛いけれど我慢して投げる・打つ」
という判断も、いつでも適切とは限りません。
練習を続けられるかどうかは、
- 痛みの程度
- 症状の経過
- 競技動作への影響
- 疑われる病態
- 医療者による評価
などを踏まえて考える必要があります。[2]
腰痛がある状態での練習継続について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
→ 野球選手の腰痛、練習を続けていい?
まとめ|腰痛は「痛み方」だけで判断しない
野球選手の腰痛で大切なのは、「どこが痛いか」だけを見ることではありません。
確認したいのは、
どこが・いつ・何をすると・どのくらい続いているのか。
この4つです。
また、
- 片側が痛い
- 腰を反ると痛い
- 走ると痛い
- 腰を押すと痛い
といった症状があっても、それだけで腰椎分離症などの病名を自己判断することはできません。[4][5][6]
成長期だからと腰痛を「成長痛」と決めつけるのではなく、
繰り返す・長引く・悪化する・競技に支障がある
といった変化がないか確認しましょう。
そして、脚のしびれや力の入りにくさ、強い外傷後の痛み、発熱や夜間痛など、気になる症状がある場合には医療機関へ相談してください。[2][3]
腰痛の原因を正しく知るためには、症状だけで判断するのではなく、必要に応じて医療者による評価や検査を受けることが重要です。
この記事で覚えてほしい5つのこと
- 腰痛は一つの病気ではありません。
- 「どこ・いつ・何をすると・どのくらい」を確認しましょう。
- 症状だけで腰椎分離症などの病名を決めないことが大切です。
- 成長期だからといって腰痛を放置しないようにしましょう。
- 長引く・繰り返す・悪化する・競技に支障がある場合は、状態の評価を考えましょう。
次に読む記事
腰痛について全体像を知りたい方
→ 野球選手の腰痛とは?原因・腰椎分離症・検査・治療・予防・復帰まで徹底解説
腰椎分離症について詳しく知りたい方
→ 野球選手の腰椎分離症とは?
病院に行くべきか迷っている方
→ 野球選手の腰痛で病院に行く目安
腰痛がある状態で練習を続けてよいか知りたい方
→ 野球選手の腰痛、練習を続けていい?
参考文献
[1] Wall J, Meehan WP 3rd, Trompeter K, et al.
Incidence, prevalence and risk factors for low back pain in adolescent athletes: a systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2022;56(22):1299-1306. doi:10.1136/bjsports-2021-104749. PMID: 36150752.
[2] Daniels JM, Pontius G, El-Amin S, Gabriel K.
Evaluation of low back pain in athletes. Sports Health. 2011;3(4):336-345. doi:10.1177/1941738111410861. PMID: 23016026.
[3] Purcell L, Micheli L.
Low Back Pain in Young Athletes. Sports Health. 2009;1(3):212-222. doi:10.1177/1941738109334212.
[4] Kato K, Otoshi K, Kobayashi K, et al.
Clinical characteristics of early-stage lumbar spondylolysis detected by magnetic resonance imaging in male adolescent baseball players. J Orthop Sci. 2024;29(1):35-41. doi:10.1016/j.jos.2022.10.014. PMID: 36396506.
[5] Roy SL, Shaw PC, Beattie TF.
Low back pain in the paediatric athlete. Eur J Emerg Med. 2015;22(5):348-354. doi:10.1097/MEJ.0000000000000154. PMID: 24756086.
[6] Grødahl LHJ, Fawcett L, Nazareth M, et al.
Diagnostic utility of patient history and physical examination data to detect spondylolysis and spondylolisthesis in athletes with low back pain: A systematic review. Man Ther. 2016;24:7-17. doi:10.1016/j.math.2016.03.011. PMID: 27317501.
[7] Spondylolysis: A narrative review of etiology, diagnosis, and treatment. 2019 update.
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