「投げる」「打つ」「走る」「捕る」。
野球では、毎日のようにこうした動きを繰り返します。
では、私たちの体の中では、何が起きているのでしょうか?
「投げるなら腕を使う」「走るなら脚を使う」と考えがちですが、実際の動きはそれほど単純ではありません。
体は、骨・関節・筋肉・腱など、さまざまな部分がそれぞれの役割を持ちながら協力して動いています。[1][2]
そして野球では、この「体の協力」が、投げる・打つ・走る・捕るといった動きにつながっています。
この記事では、難しい解剖学を覚えるのではなく、
「体はどうやって動くのか?」
という基本から考えていきます。
この記事でわかること
- 体を動かすために、どんな仕組みが働いているのか
- 「力を出す」「支える」「伝える」とはどういうことか
- なぜ体は一部分だけではなく、全身で動くのか
- 野球では体をどのように使っているのか
- 身体を理解することが、ケガからの復帰やパフォーマンスを考える土台になる理由
体は、いろいろな部分が協力して動いている
まず知っておきたいのは、
体は一部分だけで動いているわけではない
ということです。
体の中には、それぞれ役割の違う組織があります。
骨は体を支える土台になる
骨は、体を支える大切な土台です。
骨格は体を支えるだけでなく、筋肉などと協力して体の動きにも関わっています。[1][2]
たとえば、立つ、歩く、走るといった動きにも、骨と筋肉の協力が必要です。
関節があるから、体を動かせる
関節は、簡単にいえば骨と骨がつながり、動きを生み出す場所です。
肩関節、肘関節、股関節、膝関節など、それぞれの関節には動き方の特徴があります。
関節によって動く範囲や方向が異なるため、体はさまざまな動きを行うことができます。[1][2]
筋肉は力を生み出す
筋肉は、体を動かすための力を生み出します。
ただし、筋肉だけで体が動くわけではありません。
筋肉が生み出した力が、骨や関節の動きにつながっていくことで、実際の動作になります。[2]
腱は筋肉と骨をつなぐ
そこで重要になるのが腱です。
腱は筋肉と骨をつなぎ、筋肉が生み出した力を骨へ伝える役割を持っています。[2]
イメージすると、
筋肉が力をつくる
↓
腱を通して骨へ力が伝わる
↓
伝わった力が骨や関節の動きにつながっていく
という関係です。
もちろん、実際の体の動きはこれほど単純な一直線ではありません。
ここで大切なのは、
「体を動かすには、いくつもの組織が協力している」
というイメージです。
もっと詳しく知る
骨・関節・筋肉・腱など、それぞれの役割は後の記事で一つずつ詳しく解説していきます。
「動く」だけが、体の仕事ではない
体の動きを考えるとき、「筋肉が動かす」というイメージだけでは足りません。
動作には、いくつもの役割があります。
力を出す
まずは、動くための力をつくることです。
筋肉は働くことで力を生み出します。
大きく動くときだけでなく、姿勢を保つときにも筋肉は働いています。
体を支える
動くためには、動くための土台も必要です。
立ったり、走ったり、投げたりするときには、体を支えながら姿勢を保つことも重要です。
力を伝える
ある場所で生まれた力を、別の場所へ伝えることも必要です。
野球の動きでは、一つの部分だけで完結することは少なく、複数の身体部位が協力して動きます。
動きを調整する
体は、ただ力を出しているだけではありません。
脳や神経からの指令と、体から入ってくる感覚情報を使いながら、動きを調整しています。[3]
たとえば、ボールを捕るときには、
「どこにボールがあるか」「自分の手がどこにあるか」
などの情報を使いながら、手や体の動きを調整しています。
動きを止める
そして忘れてはいけないのが、「止める」ことです。
野球では、動き始めることだけでなく、減速したり、止まったり、方向を変えたりすることも多くあります。
つまり、体を上手に動かすということは、
動かす力をつくることだけではなく、支え、伝え、調整し、止めることまで含めて考える
ということです。
体は一部分だけでは動かない
ここが、野球選手が体を理解するときに特に大切なところです。
たとえば「投げる」と聞くと、腕を振る動作を思い浮かべるかもしれません。
でも、投球は腕だけの動作ではありません。
投球は、下肢・体幹・上肢が協調して動く全身運動として研究されています。[4][5]
腕を動かすときも、腕だけが働いているわけではない
腕を動かすときには、腕の筋肉だけでなく、体を支える働きや姿勢を保つ働きなども関わります。
大きな動作ほど、体の複数の部分が協力することを考える必要があります。
下半身・体幹・上半身が協力して動く
投げる、打つ、走るといった動作では、下半身だけ、上半身だけというように分けて考えるよりも、体全体のつながりを見ることが大切です。
特に投球では、下半身や体幹を含めた全身の動きが上肢の動きと関係しています。[4][5]
「力をつくる場所」と「力を伝える場所」がある
体のある部分が生み出した力が、そのまま同じ場所で使われるとは限りません。
動作の中では、
力をつくること
力を伝えること
その力を受け止めること
などが組み合わさっています。
「運動連鎖」という考え方
このように、体のいろいろな部分が協力しながら動くことを考えるときに使われる言葉の一つが、
「運動連鎖」
です。
難しく考える必要はありません。
まずは、
体のいろいろな部分が、協力しながら動いている
と理解できれば十分です。
運動連鎖という言葉そのものを覚えることよりも、一部分だけではなく、体全体のつながりを見る視点を持つことのほうが大切です。
次に読む
体は一部分だけでは動かない?|全身で力を伝える仕組み
「運動連鎖」について、もう少し具体的に見ていきます。
野球では、体をどう使っている?
では、その体の仕組みを野球ではどう使っているのでしょうか。
投げる
投球は、下半身・体幹・上半身が協調する全身運動です。[4][5]
そのため、投球を考えるときには「腕をどう振るか」だけでなく、
「体全体でどう動いているか」
という視点を持つことが大切です。
打つ
打撃でも、腕だけを動かしているわけではありません。
下半身や体幹などを使いながら、体全体を協調させてバットを動かします。
ここでも、
「腕をどう振るか」だけではなく、「体全体をどう使っているか」
を見ることがポイントです。
走る
走るときは脚を動かします。
しかし、体を前へ進めるためには、脚だけでなく体全体を協調させる必要があります。
また、野球では走り続けるだけでなく、
- スタートする
- 加速する
- 減速する
- 止まる
- 方向を変える
といった動きも行います。
捕る
捕球では、まずボールに合わせて体を動かします。
そして、体を安定させながら手を使ってボールを捕ります。
さらに、捕った後には送球動作へ移ることもあります。
つまり、野球の動作は一つずつ独立しているわけではありません。
「走って捕る」
「捕って投げる」
「打って走る」
のように、複数の動作がつながっていることも多いのです。
体はいつも同じように動くわけではない
ここまで読むと、
「体はいつも同じように動くの?」
という疑問が出てきます。
実際には、体の状態によって動き方は変化することがあります。
疲れると、動きが変わることがある
特に投球では、疲労に伴って動作の変化やパフォーマンス低下がみられることが報告されています。[6][7]
そのため、
「疲れていても、とにかく同じ動きをすればいい」
とは限りません。
体の状態を知り、その状態に合わせて考えることも、野球を続けるうえで大切です。
成長すると、体も変わる
成長期には、身長や体重などが変化します。
体の大きさやバランスが変われば、これまでと同じように動いていても、感じ方や動き方が変わることがあります。
成長期の身体については、別の記事で詳しく扱います。
痛みやケガがあると、動きに変化が出ることもある
痛みやケガがあると、体の使い方が変わることがあります。
また、ケガからの復帰途中では、
「痛みがなくなったこと」
と、
「競技で必要な動きがすべて戻ったこと」
が同じとは限りません。
だからこそ、
「痛くないか」だけではなく、「体がどう動いているか」
を見る視点も大切になります。
ただし、体の知識だけで痛みやケガの原因を自己判断できるわけではありません。
なぜ、野球選手が体の仕組みを知ることが大切なのか?
身体を理解することは、ケガを防ぐためだけのものではありません。
自分の動きを考えるきっかけになる
「腕を振る」「脚を動かす」だけではなく、
「今、体のどこが動いているんだろう?」
と考えられるようになります。
自分の動きを観察するきっかけにもなります。
ケガをしたときに、体の変化を考えやすくなる
痛みがある場所だけを見るのではなく、
「動き全体では何が変わったんだろう?」
と考える視点につながります。
ただし、身体の知識だけで痛みやケガの原因を自己判断できるわけではありません。
身体理解は、自己判断のためではなく、自分の体で起きていることを理解するための土台として役立ちます。
リハビリの意味を理解しやすくなる
リハビリでは、体の状態に合わせて、少しずつ必要な動きや機能を取り戻していきます。
体の仕組みを知っていれば、
「なぜ、この練習をしているんだろう?」
という疑問も考えやすくなります。
より良いパフォーマンスを考える土台になる
パフォーマンスを高めることも、
「もっと力を出せばいい」
という単純な話ではありません。
力をつくること、伝えること、体を安定させること、動きを調整することなど、さまざまな要素を考える必要があります。
だから、
自分の体を知ることは、自分の動きを知ることにつながります。
そして、自分の動きを知ることが、より良い動きやパフォーマンスを考える土台になります。
まとめ|まず覚えておきたい5つのこと
この記事で、まず覚えておいてほしいのは次の5つです。
1.体は一部分だけで動いているわけではない。
2.骨・関節・筋肉・腱などが、それぞれの役割を持って協力している。
3.体を動かすには、力を出すだけでなく、支える・伝える・調整する・止めることも必要。
4.野球の「投げる・打つ・走る・捕る」も、体のさまざまな部分が協力して行っている。
5.体の仕組みを知ることは、ケガからの復帰や、より良いパフォーマンスを考えるための土台になる。
身体を理解することは、難しい専門知識をたくさん覚えることではありません。
まずは、
「自分の体は、どこが、何のために、どう協力して動いているのか?」
と考えてみることから始めてみましょう。
次に知りたい「体のつながり」
「体全体で動く」とは、具体的にどういうことなのでしょうか?
次の記事では、
体は一部分だけでは動かない?|全身で力を伝える仕組み
というテーマで、「運動連鎖」についてもう一段詳しく見ていきます。
身体の仕組みを知ることで、野球の動き方だけでなく、ケガをしたときの体の変化や、リハビリで取り戻していくものについても考えやすくなります。
身体理解は、自分の体を知り、より良く動き、ケガからの復帰につなげていくための基礎です。
これから一つずつ、体の仕組みをわかりやすく見ていきましょう。
参考文献・情報源
- National Institute of Arthritis and Musculoskeletal and Skin Diseases (NIAMS). Learning About Joints. https://www.niams.nih.gov/health-topics/educational-resources/health-lesson-learning-about-joints
- OpenStax. Anatomy and Physiology 2e. Musculoskeletal system. https://openstax.org/details/books/anatomy-and-physiology-2e
- NCBI Bookshelf. Neurobiology of Motor Control. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/
- Chalmers PN, et al. The Relationship Between Pitching Mechanics and Injury: A Review of Current Concepts. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28107113/
- Gauthier JM, et al. Evaluation and Treatment of Baseball Pitchers: There’s More to Assess than the Arm. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39758696/
- Birfer R, Sonne MWL, Holmes MR. Manifestations of muscle fatigue in baseball pitchers: a systematic review. PeerJ. 2019;7:e7390. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31392098/
- Yanagisawa O. Alterations in pitching biomechanics and performance with an increasing number of pitches in baseball pitchers: A narrative review. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37574914/
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