野球肩の治療やリハビリを終え、再び投球できるようになったら、次に考えたいのが「どうすれば肩を守りながら野球を続けられるか」ということです。
野球肩の予防というと、肩のストレッチや筋力トレーニングを思い浮かべるかもしれません。
しかし、成長期の野球選手では、それだけではありません。
投球量、疲労、休養、身体の状態、そして痛みへの対応まで含めて考えることが大切です。[1][2][9]
特に、若年野球選手では腕の疲労や1試合あたりの投球数などが、肩・肘の障害と関連することが報告されています。[1][2]
この記事では、野球肩を予防するために知っておきたいポイントを、選手・保護者・指導者の視点から解説します。
野球肩の予防で最も大切なこと
野球肩を予防するうえで、まず知っておきたいのは、
「肩だけを鍛えれば、野球肩を防げる」というわけではない
ということです。
若年野球選手を対象としたシステマティックレビューでは、年齢、身長、複数チームでのプレー、球速、腕の疲労などが投球側上肢の障害と関連し、
1試合あたりの投球数は肩障害のリスク因子として報告されています。
一方、年間投球数や年間イニングなどについては、研究結果が一貫していない項目もあります。[1]
また、若年野球投手を対象としたシステマティックレビュー・メタ解析では、腕の疲労がある状態で投球することが、肩・肘障害と有意に関連していました。[2]
そのため、野球肩の予防では、
- 投球量を管理する
- 疲労した状態で投げ続けない
- 十分な休養をとる
- 身体全体を整える
- 痛みを我慢しない
という複数の要素を組み合わせて考えることが重要です。
野球肩予防の基本① 投球量を管理する
野球肩を予防するうえで、まず確認したいのが**「どれくらい投げているか」**です。
試合だけでなく練習での投球も考える
投球量を管理するとき、試合で投げた球数だけを数えていてはいけません。
実際には、
- 試合
- ブルペン
- 練習での投球
- 自主練習
- 他チームでの活動
- 大会や遠征
など、さまざまな場面で投球しています。
投球負荷に関するシステマティックレビューでは、Little Leagueや高校野球の投手で、投球負荷の増加が痛み、障害、腕の疲労と関連する可能性が示されています。
ただし、年齢ごとの「適切な投球数」については、十分なエビデンスが確立していません。[3]
1日の投球量だけでなく、週間・年間の負荷を見る
「今日は何球投げたか」だけでなく、
1週間でどれくらい投げたか
という視点も重要です。
さらに、シーズンを通してどれくらい投げているかを把握することも、投球負荷を管理するうえでは有用です。
ただし、年間投球量と障害リスクの関係については研究結果が一貫しているわけではありません。[1][3]
そのため、
「年間○球を超えたら危険」という単純な基準ではなく、投球量・疲労・休養などを総合的に管理する
という考え方が適切です。
複数チームで投げる場合は、総投球量を把握する
複数のチームやリーグで活動している選手では、チームごとの投球数だけを見ていると、選手本人の総投球負荷を把握できません。
Pitch Smartでも、複数のリーグやチームで活動する選手について、年間を通して投球管理を行う必要性が示されています。[4]
したがって、
チームごとではなく、選手本人が実際にどれくらい投げているかをまとめて把握する
ことが大切です。
年齢や成長段階に合わせて投球を管理する
Pitch Smartでは、年齢ごとに試合での投球数上限と休養日の目安が設定されています。
例えば13~14歳では、1試合の投球数上限を95球とし、投球数に応じて休養日を設ける基準が示されています。[4]
ただし、ここで注意したいのは、
「○球までなら絶対に安全」という意味ではない
ということです。
投球数の基準は、投球負荷を管理するための実践的な目安であり、その球数を守れば故障しないことを保証するものではありません。
研究でも、年齢ごとの最適な投球数についてはさらなる検討が必要とされています。[3]
野球肩予防の基本② 疲労した状態で投げ続けない
野球肩の予防では、球数だけでなく**「疲労していないか」**を見ることも重要です。
若年野球投手を対象としたメタ解析では、腕の疲労下での投球が肩・肘障害の重要なリスク因子として報告されています。[2]
肩や腕が重いときは注意する
例えば、
- 肩が重い
- 腕が重い
- いつもより投げにくい
- 投球後の疲労が強い
- 普段と同じように投げられない
といった変化があれば、身体の状態を確認しましょう。
球速や投球パフォーマンスの変化を見る
投球疲労についてまとめたシステマティックレビューでは、疲労に伴って投球動作の変化やパフォーマンス低下、障害リスクの増加がみられることが報告されています。[5]
ただし、
「球速が落ちた=必ず肩を痛める」
という意味ではありません。
球速やコントロールなどの変化は、疲労や身体状態を確認するための一つのサインとして考えます。
2024年の高校野球投手を対象とした前向き研究でも、試合中の高い球速やシーズン中の強度上昇などが、投球関連障害と関連していました。
ただし、この研究では投球量そのものについては、障害群と非障害群の間に明確な差は認められていませんでした。[6]
このことからも、球数だけでなく、投球強度や疲労などを含めて考える必要があります。
疲労が強いときは投球負荷を見直す
「あと少しだから」「試合だから」と疲労を我慢して投げ続けるのではなく、投球量や練習内容を調整することも予防の一部です。
野球肩予防の基本③ 十分な休養をとる
野球が上達するためには練習が必要です。
しかし、
休むことも身体を整えるための重要な時間です。
投球後の休養を確保する
Pitch Smartでは、年齢と投球数に応じて必要な休養日を設定しています。[4]
日本でも、全日本軟式野球連盟が掲載している「青少年の野球障害に対する提言」では、成長期の選手について練習日数・休養日・全力投球数などに関する目安が紹介されています。

これは1995年の日本臨床スポーツ医学会学術委員会の提言を参考資料として掲載したものです。[10]
連投・連日の高負荷に注意する
特に大会や連戦では、
「試合で投げる」
↓
「翌日も試合」
↓
「練習でも投げる」
というように負荷が集中することがあります。
投球数だけでなく、投球と休養のバランスを見ることが重要です。[3][4]
年間を通した休養を考える
Pitch Smartでは、年齢別に年間の投球量や、投球を休む期間についても推奨しています。例えば13~14歳では、12か月間での投球イニング数に上限を設け、年間4か月以上の投球休止期間を推奨しています。[4]
一方、年間投球量と障害リスクについては研究結果が一貫していないため、これらを「医学的に証明された安全基準」として扱うのではなく、投球負荷を管理するための実践的な指針として捉えることが大切です。[1][3]
野球肩予防の基本④ 身体全体を整える
投球は肩だけで完結する動作ではありません。
肩甲帯、体幹、股関節、下肢など、身体全体の動きが関係します。
そのため、野球肩の予防を考えるときも、肩だけを鍛えるのではなく、身体全体のコンディショニングを考える視点が重要です。[7][9]
肩だけでなく肩甲帯を整える
投球では肩関節だけでなく、肩甲骨周囲の筋肉や関節の動きも関係します。
そのため、
- 肩周囲の筋力
- 肩甲帯の機能
- 必要な可動性
- 投球動作に必要な身体機能
などを総合的に整えていきます。
体幹・下半身も含めて身体をつくる
投球動作は下半身から体幹、上肢へと力を伝える全身運動です。
ただし、
「体幹を鍛えれば野球肩にならない」
というように、特定のトレーニングだけで野球肩を予防できると断定することはできません。
2024年のレビューでは、肩・肘・股関節の可動域、腱板・肩甲周囲筋の筋力、姿勢、下肢バランスなどを含む包括的な予防プログラムが研究されていますが、
対象となった研究は4件で、年齢や競技レベル、ポジションなどにも違いがありました。[7]
野球肩予防にストレッチは必要?
野球肩の予防について調べると、「肩のストレッチ」がよく紹介されています。
では、ストレッチをすれば野球肩を防げるのでしょうか。
ストレッチだけで野球肩を予防できる?
2024年のスコーピングレビューでは、野球選手の投球障害予防について、sleeper stretch、肩の外旋筋力トレーニング、可動域や筋力などを組み合わせた包括的な予防プログラムが研究されており、障害発生を減らす可能性が報告されています。[7]
ただし、このレビューで採用された研究は4件と限られており、対象者や障害の定義も異なります。
そのため、
「ストレッチをすれば野球肩を予防できる」と単純に考えることはできません。
「肩が柔らかい=故障しない」ではない
肩の可動域は投球を考えるうえで重要な身体的要素の一つですが、
肩が柔らかければ野球肩にならない
という単純な関係ではありません。
若年野球選手を対象としたシステマティックレビューでも、肩の外旋や総可動域など、いくつかの可動域指標について障害リスクとの関連が明確ではない項目があります。[1]
必要な可動性を維持する
大切なのは、
「できるだけ柔らかくする」
ことではなく、
「投球に必要な可動性を保ち、身体の状態に合わせてコンディショニングする」
という考え方です。
野球肩予防に筋力トレーニングは必要?
筋力トレーニングも、野球肩予防を考えるうえで重要な選択肢の一つです。
ただし、ここでも「筋トレをすれば故障しない」と単純化しないことが重要です。
肩だけを鍛えればいいわけではない
肩周囲の筋力だけでなく、
- 肩甲帯
- 体幹
- 下半身
などを含めた身体全体の機能を整えることを考えます。[7][9]
ストレッチと筋トレ、どちらがいい?
高校野球投手を対象としたランダム化比較試験では、肩のストレッチを行う群と外旋筋力トレーニングを行う群を比較したところ、
150日間の観察期間中の肩・肘障害発生率は、ストレッチ群22.6%、筋力トレーニング群9.8%でした。[8]
ただし、これは高校野球投手を対象とした一つのランダム化比較試験です。
したがって、
「筋トレの方がすべての年代・選手に優れている」
と一般化することはできません。
2024年のスコーピングレビューでも、外旋筋力トレーニングや包括的な予防プログラムが障害を減らす可能性が示されていますが、研究数は限られています。[7]
痛みがある状態で無理に鍛えない
すでに肩に痛みがある場合は、「予防のための筋トレ」を続けることよりも、まず現在の状態を確認することが優先されます。

投球復帰後に野球肩を再発させないために
野球肩の治療・リハビリを終えて投球に復帰できたとしても、
「復帰=以前と同じ量を投げていい」
という意味ではありません。
投球復帰後も、身体の状態を確認しながら段階的に投球負荷を戻していくことが重要です。[9]
復帰直後に急に投球量を増やさない
投球を長期間休んでいた選手が、いきなり以前と同じ強度・球数に戻せば、身体に大きな負荷がかかる可能性があります。
投球復帰に関するレビューでは、可動域、筋力、肩甲帯の機能などを確認したうえで、距離・努力度・投球量を段階的に増やす、基準に沿った復帰プログラムが推奨されています。[9]
投球後の肩・腕の状態を確認する
復帰後は、
- 投球後の痛み
- 肩や腕の重さ
- 疲労
- 投球動作の変化
- 翌日の状態
などを確認します。
特に、以前と同じ部位に痛みが繰り返し出る場合は、「一度復帰できたから大丈夫」と自己判断しないことが大切です。
保護者ができる野球肩予防
野球肩の予防では、選手本人だけに責任を負わせないことも重要です。
子どもの投球量を把握する
まず、
「今週、この子はどれくらい投げたのか?」
を把握しましょう。
試合だけでなく、練習やチーム外での投球も含めて考えます。[1][4]
疲労や身体の変化を確認する
「今日は疲れていない?」「肩や腕は重くない?」
など、普段との違いを確認します。
ただし、保護者が症状を診断する必要はありません。
いつもと違う状態に気づき、必要に応じて指導者や医療機関に相談することが大切です。
「肩が痛い」と言いやすい環境をつくる
選手が、
「痛いと言ったら試合に出られなくなる」
と感じてしまうと、痛みを隠してしまう可能性があります。
痛みを伝えられる環境をつくり、無理をして投げることを当然にしないことも、予防の一部です。
指導者ができる野球肩予防
指導者にとって重要なのは、選手個人の努力だけに頼らず、チームとして投球負荷を管理することです。
投球数を記録する
試合の球数だけでなく、練習や大会なども含めて把握します。
疲労状態を確認する
球数が基準以内でも、選手の疲労状態を確認します。
Pitch Smartでも、投球数・休養日の設定に加えて、疲労のサインを確認することが推奨されています。[4]
チーム外の投球も把握する
複数チームや大会に参加している場合、チーム単独の投球数だけでは選手の総負荷を把握できません。
保護者・選手と情報を共有しながら管理することが大切です。[1][4]
痛みを訴えた選手を無理に投げさせない
「少し痛いけれど投げられる」という状態を、問題ない状態と判断してはいけません。
痛みが続いたり、繰り返したりする場合には、投球を続けることよりも状態を確認することを優先しましょう。
野球肩を予防するためのチェックリスト
投球管理
□ 今週の投球量を把握している
□ 試合以外の投球も把握している
□ 他チームでの投球も確認している
□ 連投や高負荷が続いていない
疲労・休養
□ 疲労した状態で投げ続けていない
□ 投球後に十分な休養をとっている
□ 大会や連戦後に身体を休ませている
身体づくり
□ 肩だけでなく全身を整えている
□ ストレッチだけに頼っていない
□ 筋力トレーニングだけに頼っていない
□ 成長や身体の状態に合わせて取り組んでいる
痛み
□ 肩の痛みを我慢して投げていない
□ 「痛い」と言いやすい環境がある
□ 同じ部位の痛みを繰り返していない
□ 痛みが続く場合に相談できる環境がある
それでも肩が痛くなったら?
ここまで予防に取り組んでいても、肩の痛みが起こることはあります。
大切なのは、「予防していたから大丈夫」と自己判断しないことです。
痛みを我慢して投げ続けない
痛みがある状態で投球を続けるのではなく、まず身体の状態を確認しましょう。
再び痛みが出た場合は自己判断しない
特に、
- 同じ場所が繰り返し痛む
- 投球するたびに痛む
- 痛みが強くなっている
- 投球後も痛みが残る
- 日常生活でも痛む
といった場合には、医療機関への相談を検討します。
日本の野球障害に関する提言でも、成長期の選手について肩や肘の痛みに注意し、専門医による定期的なチェックの必要性が示されています。[10]
痛みが出たら、「予防」の段階から「状態を確認する段階」へ戻ることが大切です。
まとめ|野球肩を予防して長く野球を続けるために
野球肩の予防は、肩だけを鍛えることではありません。
大切なのは、
① 投球量を管理する
② 疲労した状態で投げ続けない
③ 十分な休養をとる
④ 身体全体を整える
⑤ 痛みを我慢しない
という5つの視点です。
特に成長期の野球選手では、試合だけでなく練習やチーム外での投球も含めて、実際の投球負荷を把握することが重要です。[1][3][4]
そして、野球肩から投球に復帰した選手は、
「投げられるようになった」ことをゴールにせず、「身体の状態を確認しながら、長く野球を続ける」ことを次の目標にする
ことが大切です。[9]
野球肩を予防するために、すべての選手に当てはまる万能な方法が一つあるわけではありません。
投球量、疲労、休養、身体づくり、痛みへの対応を組み合わせながら、その選手に合った投球環境をつくっていきましょう。
よくある質問
野球肩はどうすれば予防できますか?
投球量の管理、疲労した状態での投球を避けること、十分な休養、身体全体のコンディショニング、痛みを我慢しないことが重要です。[1][2][3]
野球肩予防にストレッチは必要ですか?
ストレッチを含む予防プログラムで肩・肘障害の減少が報告されていますが、ストレッチだけで野球肩を予防できると考えるのは適切ではありません。研究数もまだ限られています。[7][8]
野球肩予防に筋トレは必要ですか?
筋力トレーニングを含む予防プログラムは有望ですが、筋トレだけで予防できるわけではありません。投球量、疲労、休養などと合わせて考える必要があります。[7][8]
野球肩を予防するには何球まで投げていいですか?
年齢別の投球数・休養日の目安としてPitch Smartなどがあります。ただし、特定の球数を守れば故障しないという「安全球数」が確立しているわけではありません。[3][4]
肩が少し痛いときは投げてもいいですか?
痛みを我慢して投球を続けるのではなく、まず身体の状態を確認することが大切です。痛みが続く、繰り返す、悪化する場合には、医療機関への相談を検討してください。[10]
野球肩から復帰した後に気をつけることは?
復帰直後に急激に投球量を増やさず、身体の状態を確認しながら段階的に投球負荷を戻すことが重要です。[9]
参考文献
[1] Norton R, Honstad C, Joshi R, Silvis M, Chinchilli V, Dhawan A. Risk Factors for Elbow and Shoulder Injuries in Adolescent Baseball Players: A Systematic Review. Am J Sports Med. 2019;47(4):982-990. PMID: 29630388.
[2] Salamh P, Jones E, Bashore M, Liu X, Hegedus EJ. Injuries and associated risk factors of the shoulder and elbow among adolescent baseball pitchers: A systematic review and meta-analysis. Phys Ther Sport. 2020;43:108-119. PMID: 32143085.
[3] Bakshi NK, Inclan PM, Kirsch JM, Bedi A, Agresta C, Freehill MT. Current Workload Recommendations in Baseball Pitchers: A Systematic Review. Am J Sports Med. 2020;48(1):229-241. PMID: 31013139.
[4] MLB / USA Baseball. Pitch Smart. Guidelines for Youth and Adolescent Pitchers.

[5] Birfer R, et al. Manifestations of muscle fatigue in baseball pitchers: a systematic review. PMID: 31392098.
[6] Zaremski JL, Pazik M, Vasilopoulos T, Horodyski M. Workload Risk Factors for Pitching-Related Injuries in High School Baseball Pitchers. Am J Sports Med. 2024;52(7):1685-1691. PMID: 38700088.
[7] Karasuyama M, Tsuruta T, Kawakami J, Oike T, Uchida K, Minamikawa T. Preventive interventions for throwing injuries in baseball players: a scoping review. J Shoulder Elbow Surg. 2024;33(8):e451-e458. PMID: 38311104.
[8] Shitara H, Tajika T, Kuboi T, et al. Shoulder stretching versus shoulder muscle strength training for the prevention of baseball-related arm injuries: a randomized, active-controlled, open-label, non-inferiority study. Sci Rep. 2022;12:22118. PMID: 36543874.
[9] Sgroi TA, Zajac JM. Return to Throwing after Shoulder or Elbow Injury. Curr Rev Musculoskelet Med. 2018;11(1):12-18. PMID: 29450826.

[10] 公益財団法人 全日本軟式野球連盟. 青少年の野球障害に対する提言(日本臨床スポーツ医学会学術委員会資料より抜粋).




