「子どもが野球の練習から帰ってきて、『肘が痛い』と言っている」
そんなとき、
「どこが痛いんだろう?」
「内側なら野球肘なのかな?」
「外側の痛みは危ないって聞いたけど、本当?」
「少し休めば大丈夫なのかな?」
と不安になる保護者の方もいると思います。
野球肘では、肘の内側・外側・後方など、さまざまな場所に異なる障害が起こる可能性があります。
日本整形外科学会も、成長期の野球肘について、内側では靱帯・腱・軟骨、外側では骨・軟骨、後方でも骨・軟骨に障害が起こり得ると説明しています。[1]
ただし、最初に一つ大切なことがあります。
「痛む場所=病名」ではありません。
たとえば「肘の外側が痛い」だけで、離断性骨軟骨炎(OCD)と診断できるわけではありません。
痛みの場所に加えて、いつ痛むのか、どの動作で痛むのか、痛みが続いているのか、肘が動かしにくくなっていないかなどを組み合わせて考える必要があります。[1][2]
この記事では、肘の痛みを
内側・外側・後方
の3つに分け、さらに「痛みの場所だけでは分からない情報」も含めて整理します。
※この記事は自己診断のためのものではありません。チェック項目は、症状を整理し、医療機関へ相談するかどうかを考える材料として使用してください。
この記事を読むと分かること
- 野球肘で肘の内側・外側・後方が痛む場合に確認したいこと
- 痛む場所ごとに、どのような病態を考えるのか
- 特に外側の痛みで確認したい症状
- 痛みの場所と一緒に確認したい5つのポイント
- どのような場合に投球を続けない方がよいのか
- 受診を検討したい症状
- このチェックリストをどのように使えばよいのか
1.このチェックリストの使い方
野球肘は、一つの病名を指す言葉ではありません。
成長期の投球に関連して、肘の内側・外側・後方などに異なる障害が生じることがあります。[1]
そのため、
「どこが痛い?」
という質問は重要ですが、
「そこが痛いから、この病気」
と決めることはできません。
このチェックリストの目的は、
① 痛みの場所を整理する
② 痛みが出る条件を整理する
③ 肘の動きや腫れなどの変化を確認する
④ 必要であれば受診につなげる
ことです。
反対に、「当てはまる項目が少ないから大丈夫」と判断するためのものではありません。
2.肘の内側が痛む場合
肘の内側は、投球動作による外反ストレスなどが加わる部位です。
成長期の選手では、内側上顆周辺の成長部、靱帯、腱、軟骨など、複数の組織が障害の対象になります。[1]
こんな症状がないか確認してみてください
□ 投球すると肘の内側が痛む
□ 投球後も痛みが残る
□ 肘の内側を押すと痛い
□ 同じ場所の痛みを繰り返している
□ 投球数が多い日ほど痛みや違和感が強い
□ 肘の動きが以前と違う
□ 肘の痛みとともに手や前腕に違和感がある
日本の小学生野球選手720人を対象とした研究では、29.4%が1週間以上続く肘痛を経験しており、肘の屈曲制限、内側上顆の圧痛、外反ストレステスト陽性などが肘痛と関連していました。[3]
また、294人の9~12歳の野球選手を調査した研究では、肘の画像上の障害と関連する要因として、年齢、投手であること、毎日の練習などが報告されています。[4]
ここで大切なこと
内側痛があるからといって、
「靱帯を痛めた」
と自己判断することはできません。
成長期では、内側上顆の成長部を含め、複数の組織を考える必要があります。[1]
3.肘の外側が痛む場合
外側の痛みでは、上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎(OCD)など、成長期に注意したい病態が含まれます。[1][2]
ただし、
「外側が痛い=OCD」ではありません。
外側痛の原因は一つではなく、症状や診察、画像検査などを組み合わせて評価します。
こんな症状がないか確認してみてください
□ 投球時に肘の外側が痛む
□ 投球後にも外側の痛みが残る
□ 肘が以前より伸びにくい
□ 肘が曲げにくい
□ 肘の中で引っかかる感じがある
□ 腫れがある
□ 同じ外側痛を繰り返している
□ 投球を減らしても痛みが続く
なぜ外側の痛みを軽視してはいけないのか?
上腕骨小頭のOCDは、成長期の野球選手にみられる重要な肘障害の一つです。
日本の中学生・高校生野球選手2,433人を対象とした研究では、超音波検査によって3.4%の投球側肘に上腕骨小頭OCD病変が確認されました。
OCDのある選手では、野球を始めた年齢が早く、競技歴が長く、現在または過去の肘痛が多くみられました。[2]
さらに、6~17歳の野球選手4,249人を対象にした日本の研究では、OCDは年齢によって頻度が異なり、OCDを有する選手では肘痛の既往が多くみられました。[5]
一部のOCDでは、病変が進行しても症状が目立たないことがあります。そのため、
「痛みが軽いから大丈夫」
4.肘の後方が痛む場合
肘の後方にも、投球動作に関連した障害が起こることがあります。
日本整形外科学会は、野球肘では肘の後方にも骨・軟骨の障害が起こり得ると説明しています。[1]
こんな症状がないか確認してみてください
□ 投げ終わった後に肘の後ろが痛む
□ 肘を伸ばすと後方が痛い
□ 肘の後方を押すと痛い
□ 肘を完全に伸ばせない
□ 以前より肘が伸びにくい
□ 痛みを繰り返している
□ 腫れや引っかかりがある
5.痛みの場所だけでなく「5つ」を確認する
肘の場所が分かったら、次の5項目も確認してみてください。
① いつ痛む?
例えば、
- 投球中
- 投球直後
- 練習後
- 翌日
- 日常生活
などです。
② 何をすると痛む?
- 強く投げる
- キャッチボール
- 肘を曲げる
- 肘を伸ばす
- バットを振る
- 守備で送球する
など、具体的な動作を確認します。
③ 痛みはどう変化している?
- 以前より強くなった
- 変わらない
- 軽くなっている
- 投げると毎回出る
- 一度消えても再び出る
という経過は重要です。
④ 肘の動きは変わった?
特に、
「以前より伸びない」
「以前より曲げにくい」
という変化は記録しておきたいポイントです。
日本整形外科学会も、野球肘では肘の伸び・曲がりが悪くなったり、急に動かせなくなったりすることがあると説明しています。[1]
⑤ 痛み以外の症状はある?
- 腫れ
- 引っかかり
- ロッキングのような動かしにくさ
- しびれ
- 力の入りにくさ
などです。
特に痛みに加えて機能の変化がある場合は、自己判断で投球を続けるのではなく、状態を確認することを考えます。
6.「痛む場所+症状」で考える
ここまでを表にすると、次のようになります。
| 痛む場所 | 考えるポイント | 注意したい症状 |
|---|---|---|
| 内側 | 成長部、靱帯、腱、軟骨など | 投球時痛、圧痛、繰り返す痛み |
| 外側 | 上腕骨小頭・軟骨など | 投球時痛、可動域制限、引っかかり、腫れ |
| 後方 | 骨・軟骨など | 伸展時痛、後方圧痛、伸展制限 |
これは病名を決める表ではありません。
「どこが痛いか」から、次に何を確認すればよいかを整理する表
として使ってください。
7.「痛いけど投げられる」は大丈夫?
これは場所にかかわらず重要です。
投げられることと、肘に問題がないことは同じではありません。
日本整形外科学会は、野球肘では投球を中止し肘を安静にすることが重要で、痛みを我慢して投球を続けると障害が悪化する場合があると説明しています。[1]
したがって、
「まだ投げられるから大丈夫」
ではなく、
「投げると痛い」という時点で、まず投球を続けない
ことを基本にします。
具体的な「休む・続ける」の判断は、

で詳しく解説します。
8.こんな場合は、痛みの場所にかかわらず受診を考える
以下のような場合は、内側・外側・後方を問わず、医療機関への相談を検討してください。
□ 痛みが繰り返す
□ 投球するたびに痛い
□ 痛みが徐々に強くなっている
□ 投球後も痛みが残る
□ 肘が伸びにくい
□ 肘が曲げにくい
□ 肘が引っかかる
□ 腫れている
□ 日常生活でも痛い
□ 投球量を減らしても改善しない
□ 明らかな外傷がある
□ しびれや力の入りにくさがある
日本整形外科学会も、投球時・投球後の肘痛や肘の曲げ伸ばしの悪化を野球肘の症状として挙げています。[1]
9.「痛くないから大丈夫」とも限らない
成長期の野球選手では、自覚症状がなくても肘に画像上の異常が見つかることがあります。
日本の6~17歳の野球選手4,249人を対象とした研究では、超音波検査で内側上顆部や上腕骨小頭の形態異常が確認され、それらの一部では肘痛の既往との関連が認められました。[5]
また、無症状の7~12歳野球選手を追跡した研究では、シーズン開始時の無症候性内側上顆apophysitisが、その後の肘傷害と関連していました。[6]
ただし、
「痛くない子どもは全員検査が必要」
という意味ではありません。
画像上の所見があることと、症状があることは同じではありません。
地域で野球肘検診などの機会がある場合には、そのような検診を活用することも選択肢の一つです。
🔬 研究から分かっていること
研究:Otoshi et al.
対象: 6~17歳の野球選手4,249人
方法: 質問票+超音波検査
主な結果:
- 2,309人(54.3%)に肘痛の既往
- 内側上顆部の病変と肘痛との関連
- 上腕骨小頭OCDでも肘痛の既往との関連
[5]
この研究から分かること
成長期の野球選手では、症状だけでは捉えきれない肘の画像所見が存在します。
この研究から分からないこと
画像異常のある選手が全員、将来症状を起こすわけではありません。
10.チェックリストを使ったあとの行動
ここまで確認したら、次のように考えてください。
肘が痛い
↓
どこが痛い?
↓
内側・外側・後方
↓
いつ痛い?
何をすると痛い?
どのくらい続いている?
肘は動かしにくくなっていない?
腫れ・引っかかりはない?
↓
────────────────
│
├─ 繰り返す・悪化する・動かしにくい
│ ↓
│ 投球を続けず
│ 受診を検討
│
└─ 一時的に軽くなった
↓
症状の再発に注意
この図の目的は、病名を当てることではありません。
「痛みがあるから、まず何を確認するか」
を整理することです。
11.年代によって注意点は変わる?
年齢は重要な情報の一つですが、
「小学生だからこの病気」「高校生だからこの病気」
と単純に決めることはできません。
日本の研究では、肘の画像所見や肘痛の頻度が年齢によって変化することが示されています。[5]
小学生
成長途中の骨・軟骨・成長部を考慮する必要があります。
中学生
成長と投球強度の変化が重なりやすい年代です。
高校生
投球強度や競技レベルが上がり、靱帯・軟骨なども含めて幅広く考える必要があります。
青年野球選手のsystematic reviewでは、年齢、身長、複数チームでのプレー、球速、腕の疲労などが投球障害のリスク因子として報告されています。[7]
12.筆者の経験から
私自身、高校生の頃、投球時に肘の内側に鈍い痛みを感じることがありました。
当時は、
「投げられるから大丈夫」
くらいに考えていました。
痛む場所によって注意することが違うことも、痛みの経過を記録することも知りませんでした。
今、柔道整復師・鍼灸師として身体の構造や機能を学び、少年野球の現場に立っていると、当時の自分に伝えたいことがあります。
それは、
「痛みの場所を知ること」は、病名を当てるためではなく、自分の身体の変化に気づくために大切だということです。
内側だから大丈夫、外側だから危険。
そんな単純な判断ではありません。
どこが痛いのか。
いつ痛いのか。
投球をやめるとどうなるのか。
同じ痛みを繰り返していないか。
そうした情報を一つずつ確認することが、適切な対応につながります。
このチェックリストが、今痛みを感じている選手や、その様子を見ている保護者の方にとって、身体の変化に気づくきっかけになればと思います。
13.よくある質問
Q1.内側と外側、どちらが危険ですか?
単純に「外側の方が危険」と比較することはできません。
外側痛では上腕骨小頭OCDなど注意すべき病態がありますが、内側痛にも成長部、靱帯、腱などさまざまな障害が含まれます。[1][2]
重要なのは、痛みの場所だけでなく、痛みの経過や肘の機能変化も合わせて確認することです。
Q2.外側が少し痛いだけなら、投げてもいいですか?
「少し痛いだけなら投げてもいい」とは一律に言えません。
特に成長期の外側痛では、症状の経過や可動域変化なども確認する必要があります。
痛みを我慢して投球を続けるのではなく、まず投球を止めて状態を確認してください。[1]
Q3.押すと痛いけれど、投げると痛くありません。大丈夫?
圧痛は診察で確認する情報の一つです。
ただし、
「投げると痛くない=問題がない」
とは言えません。
痛みの場所、圧痛、可動域、投球歴などを合わせて評価する必要があります。
Q4.痛みの場所がよく分かりません
無理に特定する必要はありません。
「この辺りが痛い」と伝えられるだけでも十分です。
痛みが複数箇所にある場合や、症状の説明が難しい場合は、医療機関で直接評価してもらう方が確実です。
Q5.痛みがなくなったらすぐ投球してもいい?
痛みがなくなったことだけで、すぐに全力投球へ戻してよいとは限りません。
病態によっては、段階的に投球負荷を戻します。
詳しくは、
→ 野球肘から投球復帰するまで
で解説します。
14.まとめ
- 野球肘では肘の内側・外側・後方などに異なる障害が起こります。[1]
- 痛む場所だけで病名を判断することはできません。
- 外側痛では上腕骨小頭OCDなどを考慮する必要があります。[2]
- 内側痛でも成長部、靱帯、腱など複数の病態を考える必要があります。[1]
- 痛みの場所と一緒に、痛むタイミング、経過、可動域、腫れや引っかかりを確認します。
- 痛みを我慢して投球を続けるのは避けます。[1]
- 繰り返す痛み、悪化、可動域制限などがあれば受診を検討します。
- このチェックリストは自己診断のためではなく、症状を整理するためのものです。
15.次に読むべき記事
野球肘の全体像を知りたい方へ
→ 野球肘とは?症状・原因・治療・予防・投球復帰まで徹底解説
痛いけど練習していいか迷っている方へ
病院に行くべきか迷っている方へ
→ 子どもが肘を痛がったら病院に行くべき?|野球肘の受診の目安
検査について知りたい方へ
治療について知りたい方へ
予防について知りたい方へ
→ 野球肘の予防方法
投球復帰について知りたい方へ
参考文献・情報源
医療情報の取り扱いについて→医療情報の編集方針
[1]日本整形外科学会
「野球肘」
成長期の野球肘について、症状、病態、診断、投球中止、治療、競技復帰などを解説。
[2]Kida Y, et al. 2014
Prevalence and Clinical Characteristics of Osteochondritis Dissecans of the Humeral Capitellum Among Adolescent Baseball Players.
The American Journal of Sports Medicine. 2014;42(8):1963-1971.
DOI: 10.1177/0363546514536843.
PMID: 24944293.
中学生・高校生野球選手2,433人を対象とした研究。超音波検査により上腕骨小頭OCDを評価し、82肘(3.4%)にOCD病変を確認。[2] (PubMed)
[3]日本の小学生野球選手における肘痛と身体所見
Correlation between playing position, elbow physical findings and elbow pain in elementary school baseball players: Results of a multi-regional study in Japan.
2014年、日本の小学5年生720人を対象とした多地域後ろ向きコホート研究。29.4%が1週間以上の肘痛を経験し、肘屈曲制限、内側上顆圧痛、外反ストレステスト陽性などとの関連を報告。[3] (PubMed)
PubMed:Japanese elementary school baseball players study
[4]Nakamura H, et al. 2010
Risk factors for elbow injuries among young baseball players.
Journal of Shoulder and Elbow Surgery.
294人の9~12歳野球選手を対象に、質問票、身体診察、超音波検査を行った研究。投手であること、毎日の練習など複数の要因と肘障害との関連を報告。[4] (PubMed)
PubMed:Risk factors for elbow injuries among young baseball players
[5]Otoshi K, et al. 2017
Age-Specific Prevalence and Clinical Characteristics of Humeral Medial Epicondyle Apophysitis and Osteochondritis Dissecans: Ultrasonographic Assessment of 4249 Players.
Orthopaedic Journal of Sports Medicine. 2017;5(5).
6~17歳の野球選手4,249人を対象に、肘の画像所見と肘痛の関連を評価。[5] (PubMed Central (PMC))
[6]Shitara H, et al. 2021
Risk factor for elbow symptom manifestation in young baseball players with asymptomatic medial elbow abnormalities: a prospective cohort study.
Scientific Reports. 2021.
無症候性の内側肘異常を有する若年野球選手を追跡し、その後の肘傷害との関連を検討した前向きコホート研究。
[7]Norton R, et al. 2019
Risk Factors for Elbow and Shoulder Injuries in Adolescent Baseball Players: A Systematic Review.
The American Journal of Sports Medicine. 2019;47(4):982-990.
DOI: 10.1177/0363546518760573.
22研究を対象とし、年齢、身長、複数チーム参加、球速、腕の疲労などを投球障害のリスク因子として整理。[7] (PubMed)



