「肘が少し痛いけど、投げられる」
「キャッチボールだけなら大丈夫?」
「大会が近いから、少しくらい我慢してもいい?」
野球をしている子どもが肘を痛がったとき、選手本人も保護者も、
**「どこまでなら練習していいのか」**
で迷うことがあります。
結論からいうと、投球によって肘が痛んでいる状態で、痛みを我慢しながら投球を続けることは避けるべきです。
日本整形外科学会も、野球肘では投球を中止し、肘を安静にすることが重要であり、痛みを我慢して投球を続けると障害が悪化し、症状によっては手術が必要になる場合があると説明しています。[1]
一方で、
「肘が痛い=野球の練習を全部禁止」
と単純に考える必要もありません。
重要なのは、投球を続けてよいか、何を休むべきか、医療機関で評価すべき状態なのかを分けて考えることです。
この記事では、
痛みがあるときの判断 → 投球を休む理由 → 受診の目安 → 休んでいる間にできること → 投球再開の考え方
という順番で解説します。
※この記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断・治療を行うものではありません。肘の痛みや可動域制限がある場合は、医療機関で評価を受けてください。
- この記事を読むと分かること
- 1.結論:肘が痛いなら、まず「投球を続けない」
- 2.「少し痛いだけ」でも投球を休むべき?
- 3.「投げ始めだけ痛い」は大丈夫?
- 4.キャッチボールなら続けてもいい?
- 5.肘の痛みがあるとき、練習は全部休むべき?
- 6.なぜ痛みを我慢して投げるのが問題なのか?
- 7.疲労しているときは、さらに注意が必要
- 8.投球数も「今、続けるべきか」を考える材料になる
- 9.「肘が痛いけど試合がある」はどうする?
- 10.こんな場合は「練習を休む」だけで済ませず受診を
- 11.痛みがなくなったら、すぐ投げていい?
- 12.投球復帰は「段階的」に考える
- 13.休んでいる間に何ができる?
- 14.投球を休むべきか迷ったら、この5つを確認
- 15.選手・保護者・指導者、それぞれができること
- 16.筆者の経験から
- 17.この記事で最も覚えてほしい5つのこと
- 18.次に読むべき記事
- 参考文献・情報源
この記事を読むと分かること
- 肘が痛いときに投げ続けてよいのか
- 「少し痛いだけ」と「受診を考える痛み」の違い
- キャッチボールなら続けてもいいのか
- 痛みがなくなればすぐ投球を再開してよいのか
- 疲労した状態で投球することがなぜ問題なのか
- 投球数をどう考えればよいのか
- 練習を休んでいる間にできること
- どのような場合に整形外科を受診すべきか
- 投球復帰をどのように考えるのか
1.結論:肘が痛いなら、まず「投球を続けない」
この記事で最も覚えてほしいのは、
肘に痛みがある状態で、痛みを我慢して投球を続けない
ということです。
日本整形外科学会は、野球肘では投球を中止し、肘を安静にすることが重要としています。
さらに、痛みを我慢して投球を続けることで障害が悪化し、場合によっては手術が必要になることもあると説明しています。[1]
したがって、
「投げられるから大丈夫」
という判断はおすすめできません。
ここで重要なのは、
「投げられるか」と「投げ続けても問題ないか」は別の話
だということです。
2.「少し痛いだけ」でも投球を休むべき?
痛みの強さだけで判断しない
「10段階で2くらいだから大丈夫」
「投げ始めは痛いけど、そのうち気にならなくなる」
「試合のときだけ少し痛む」
こうした場合でも、痛みが投球と繰り返し関連しているなら、投球を続ける前に原因を確認することが重要です。
日本整形外科学会では、野球肘の代表的な症状として、投球時・投球後の痛み、肘の伸びや曲がりの悪化を挙げています。[1]
つまり、
痛みが「軽いか重いか」だけではなく、投球と痛みが繰り返し結びついているか
を見ることが重要です。
3.「投げ始めだけ痛い」は大丈夫?
「最初だけ痛いから問題ない」とは言えません
例えば、
「最初の10球くらいだけ痛い」
「肩ならしをすると痛くなくなる」
ということがあります。
しかし、痛みが投球動作に伴って繰り返し現れているのであれば、痛みが消えることだけを理由に投球を継続するのは適切ではありません。
肘の痛みは、投球中だけでなく、投球後や翌日に出る場合もあります。日本整形外科学会も、投球時や投球後の肘痛を野球肘の症状として説明しています。[1]
したがって、
「投げ終わったら痛みが出る」
「翌日に痛みが残る」
というケースも軽視しないことが重要です。
4.キャッチボールなら続けてもいい?
「キャッチボールだから安全」とは限りません
よくあるのが、
「全力投球はやめるけど、キャッチボールならいいよね?」
という判断です。
しかし、肘の痛みが投球動作そのものによって出ているのであれば、キャッチボールも投球負荷の一部です。
「強い球ではないから安全」と一律には言えません。
特に、
- キャッチボールでも痛む
- 投球距離を伸ばすと痛む
- 送球を繰り返すと痛む
- 投球後に痛みが残る
という場合は、投球を続ける前に状態を確認する必要があります。
5.肘の痛みがあるとき、練習は全部休むべき?
ここは**「投球を休む」と「すべての運動を禁止する」を分けて考える**必要があります。
投球は休む
まず優先したいのは、
痛みを生じさせている投球負荷を止めること
です。
日本整形外科学会も、野球肘では投球中止と肘の安静を重要としています。[1]
ただし、全部の練習を止めるとは限らない
障害の種類や程度によっては、医療者の評価のもとで、
- 下半身のトレーニング
- 体幹トレーニング
- 痛みを伴わない範囲の運動
- 身体機能の確認
- 必要なリハビリテーション
などを行う場合があります。
つまり、
「痛いから、何もしない」
ではなく、
「今は何を休み、何ならできるのかを考える」
ことが大切です。
ここは自己判断で決めるのではなく、障害の程度によって医療者や指導者と相談する必要があります。
6.なぜ痛みを我慢して投げるのが問題なのか?
投球では、肘に繰り返し負荷がかかります。
そのため、すでに痛みが出ている状態でさらに同じ負荷を重ねれば、問題となっている組織に負荷が繰り返し加わる可能性があります。
ただし、
「痛みを我慢したら必ず重症化する」
と一律に断定することも適切ではありません。
野球肘には複数の病態があり、障害されている組織や進行度も異なるからです。
日本整形外科学会は、痛みを我慢して投球を続けると障害が悪化し、症状によっては手術が必要になる場合があると説明しています。[1]
したがって、個々の症例で「どの程度危険か」を自己判断するのではなく、
痛みが出た時点で投球負荷を止め、必要なら評価する
という対応が安全です。
7.疲労しているときは、さらに注意が必要
肘の痛みを考えるうえで、疲労も重要です。
Nortonらのsystematic reviewでは、青年野球選手の投球側上肢障害について、腕の疲労が独立したリスク因子として報告されています。[2]
また、Salamhらのsystematic review and meta-analysisでは、青年野球投手において、腕の疲労がある状態での投球が肩・肘障害と関連し、プールされたオッズ比は13.32でした。[3]
ただし、ここで注意が必要です。
Salamhらが分析したのは、
「野球肘」だけではなく、肩・肘を含む投球側上肢障害
です。したがって、
「疲労すると野球肘のリスクが13.32倍になる」
と解釈することはできません。[3]
正確には、
青年野球投手では、腕の疲労を伴う投球が肩・肘障害と関連していた
という結果です。だからこそ、
「今日は腕が重いけど、あと少しだけ投げる」
という判断には注意が必要です。
8.投球数も「今、続けるべきか」を考える材料になる
投球数は、痛みがある選手だけの問題ではありません。
投球負荷が大きくなるほど、痛みや障害との関連を考える必要があります。
日本全国の小学生野球選手8,354人を対象とした調査では、1日50球を超えて投げることが肩・肘痛と関連していました。[4]
ただし、これは観察研究です。
したがって、
「50球を超えたら必ず痛くなる」
という意味ではありません。
また、研究が測定したのは肩・肘の痛みであり、すべてが医師により野球肘と診断されたわけでもありません。[4]
日本の8~12歳719人を対象とした研究
Matsuuraらは、8~12歳の投手719人を対象に、1日7イニング制限と1日70球制限を比較しました。
2017年の7イニング制限群352人と、2018年の70球制限群367人を比較した後ろ向きコホート研究です。[5]
平均投球数は、
- 7イニング制限群:98.2球
- 70球制限群:52.5球
でした。[5]
肘痛は、
- 7イニング制限群:40.9%
- 70球制限群:31.9%
で、70球制限群の方が低い結果でした。肘の屈曲制限も70球制限群で少なくなっていました。[5]
この研究結果を見たときに、
8~12歳の投手では、1日70球制限群で、7イニング制限群より肘痛が少なかった。
したがって「70球以下なら安全」
ということではありません。
この研究は後ろ向きコホート研究であり、無作為化比較試験ではありません。
また、上腕骨小頭OCDのリスクについては明確な低下が確認されませんでした。[5]
したがって、投球数は重要ですが、
投球数だけを「安全ライン」として使わない
ことが大切です。
9.「肘が痛いけど試合がある」はどうする?
ここは選手本人にとって非常に難しい問題です。
大会前や重要な試合では、
「この試合だけなら」
「1イニングだけなら」
と考えたくなることがあります。
しかし、痛みがある状態で投球を続けるかどうかを、
「試合の重要度」
だけで決めるべきではありません。
日本整形外科学会も、野球肘では投球中止と安静を重要としています。[1]
大会が重要であっても、現在の肘の状態を優先して判断することが必要です。
10.こんな場合は「練習を休む」だけで済ませず受診を
次のような場合は、整形外科などの医療機関で評価を受けることをおすすめします。
- 投球するたびに痛い
- 投球後も痛みが残る
- 翌日も痛い
- 痛みが徐々に強くなっている
- 肘が伸びにくい
- 肘が曲げにくい
- 腫れがある
- 肘が引っかかる
- 日常生活でも痛む
- 投球を休んでも改善しない
日本整形外科学会でも、投球時・投球後の肘痛や、肘の伸び・曲がりが悪くなることを野球肘の症状として挙げています。[1]
特に、
「以前より肘が伸びない」
という変化は軽視しない方がよいでしょう。
11.痛みがなくなったら、すぐ投げていい?
「痛みがない=すぐ全力投球」ではありません
これは非常に重要です。
数日休んで痛みがなくなったとしても、
「では次の日から全力投球」
とするのは適切とは限りません。
野球肘には複数の病態があり、復帰時期は、
- 疾患の種類
- 障害の程度
- 症状
- 可動域
- 筋力
- 画像所見
- 治療経過
などによって異なります。
日本整形外科学会も、スポーツ復帰の時期について主治医とよく相談するよう説明しています。[1]
12.投球復帰は「段階的」に考える
状態が落ち着き、投球再開が許可された場合には、一般に、
投球を休止
↓
症状・身体機能の確認
↓
軽い投球
↓
距離・強度・投球量を段階的に増やす
↓
通常練習
↓
試合復帰
という流れで考えます。
ただし、
「野球肘なら○週間で復帰」
という一律の期間はありません。
病態によって必要な休養や治療が違うためです。
詳しくは、
→ 野球肘の治療・リハビリの流れ

→ 野球肘から投球復帰するまで

で詳しく解説しています。
13.休んでいる間に何ができる?
「投げない=何もできない」とは限りません。
状態によっては医療者の指導のもと、
- 下半身のトレーニング
- 体幹トレーニング
- 足部・股関節などの機能改善
- 肩周囲のコンディショニング
- 投球フォームを見直すための評価
- 野球以外の技術練習
などが行われる場合があります。
ただし、ここでも重要なのは、
「このトレーニングをすれば治る」
と考えないことです。
肘の障害には複数の病態があり、必要なリハビリテーションも選手によって違います。
14.投球を休むべきか迷ったら、この5つを確認
① 投げると痛い?
→ 投球を続けない。
② 投げ終わった後も痛い?
→ 投球負荷を止めて状態を確認する。
③ 翌日まで痛みが残る?
→ 自己判断で投球を再開しない。
④ 肘が伸びにくくなっている?
→ 医療機関で評価する。
⑤ 疲労している?
→ その状態で投球を続けない。 疲労は青年野球投手の肩・肘障害との関連が報告されています。[2][3]
これは診断のためのセルフチェックではありません。
**「投球を続けてよいか迷ったときの行動判断」**として利用してください。
15.選手・保護者・指導者、それぞれができること
選手
- 痛みを隠さない
- 痛みを我慢して投げない
- 疲労した状態で無理に投げない
- 投球数を記録する
- 翌日の状態も確認する
保護者
- 「これくらいなら大丈夫」と決めつけない
- 痛みを言いやすい環境をつくる
- 試合だけでなく練習の投球量も把握する
- 痛みや可動域制限が続く場合は受診を考える
指導者
- 痛みを訴えた選手に投球継続を求めない
- 投球数だけでなく疲労も確認する
- 連投や複数チームでの活動を考慮する
- 「投げられる=投げてよい」と判断しない
16.筆者の経験から
私自身も「痛いけど投げる」を経験しました
高校時代の私は、肩・肘・腰に痛みを抱えながら、いわゆる「だましだまし」で野球を続けていました。
当時は、
「投げられるなら大丈夫」
と考えていたと思います。
痛みがあっても練習を休むことへの抵抗があり、身体の中で何が起きているのかを理解していませんでした。
柔道整復師・鍼灸師として身体の構造と機能を学び、現在は草野球で投手を務め、少年野球のコーチとして現場に関わるようになってから、考え方は変わりました。
今なら、
「投げられるか」ではなく、「今の身体に何が起きているのか」
を先に考えます。
この経験は、私自身の体験です。
すべての選手にそのまま当てはまる医学的結論ではありません。
17.この記事で最も覚えてほしい5つのこと
① 肘が痛いなら、まず投球を止める
痛みを我慢した投球継続は避けます。[1]
② 「少し痛いだけ」でも投球との関連を確認する
痛みの強さだけでは判断しません。
③ 疲労した状態で投げ続けない
腕の疲労と青年野球選手の肩・肘障害との関連が報告されています。[2][3]
④ 投球数は重要だが、安全ラインではない
日本の研究では投球数制限群で肘痛が少なかった一方、70球が「絶対安全」と証明されたわけではありません。[4][5]
⑤ 痛みがなくなっても、すぐ全力投球に戻らない
病態や身体の状態を確認し、必要に応じて段階的に復帰します。[1]
18.次に読むべき記事
肘の痛みが気になる方へ
→ 野球肘の痛む場所別チェックリスト

病院に行くべきか迷っている方へ
→ 子どもが肘を痛がったら病院に行くべき?受診の目安

検査について知りたい方へ
→ 野球肘の検査|X線・エコー・MRIの違いを解説

治療について知りたい方へ
→ 野球肘の治療・リハビリの流れ

予防について知りたい方へ
→ 野球肘の予防方法

投球復帰について知りたい方へ
→ 野球肘から投球復帰するまで

野球肘の全体像を知りたい方へ
→ 野球肘とは?症状・原因・治療・予防・投球復帰まで徹底解説

参考文献・情報源
医療情報の取り扱いについて→医療情報の編集方針
[1]日本整形外科学会
日本整形外科学会.野球肘.
症状、原因・病態、診断、予防・治療、スポーツ復帰について。
[2]Norton et al., 2019
Norton R, Honstad C, Joshi R, et al.
Risk Factors for Elbow and Shoulder Injuries in Adolescent Baseball Players: A Systematic Review.
Am J Sports Med. 2019;47(4):982-990.
doi:10.1177/0363546518760573.
PubMed|DOI
[3]Salamh et al., 2020
Salamh P, Jones E, Bashore M, et al.
Injuries and associated risk factors of the shoulder and elbow among adolescent baseball pitchers: A systematic review and meta-analysis.
Phys Ther Sport. 2020;43:108-119.
doi:10.1016/j.ptsp.2020.02.013.
PubMed|DOI
[4]Takagishi et al., 2017
Takagishi K, Matsuura T, Masatomi T, et al.
Shoulder and elbow pain in elementary school baseball players: The results from a nation-wide survey in Japan.
J Orthop Sci. 2017;22(4):682-686.
doi:10.1016/j.jos.2017.03.016.
PubMed|DOI
[5]Matsuura et al., 2021
Matsuura T, Takata Y, Iwame T, et al.
Limiting the Pitch Count in Youth Baseball Pitchers Decreases Elbow Pain.
Orthop J Sports Med. 2021;9(3).
doi:10.1177/2325967121989108.
PubMed|PMC|DOI
この記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の症状については、必ず医療機関を受診し、専門家の判断を仰いでください。



