「子どもが野球の練習から帰ってきて、肘が痛いと言っている」
そんなとき、
「このくらいで病院に行っていいのかな?」
「少し休めば治るんじゃないかな?」
「本人は投げられると言っているけど、大丈夫?」
と迷うことがあると思います。
特に少年野球では、痛みを訴えることが「練習を休むこと」につながると考えて、子ども自身が我慢してしまうこともあります。
まず知っておいてほしいのは、子どもの肘の痛みを心配して受診を考えることは、決して大げさではないということです。
日本整形外科学会は、成長期に繰り返し投球することで「野球肘」が生じることを説明しており、
投球時・投球後の痛みや肘の曲げ伸ばしの悪化などを症状として挙げています。
痛みを我慢して投球を続けると、障害が悪化することがあるため、投球の中止と肘の安静が重要としています。[1]
また、日本の少年野球選手10,228人を対象とした調査では、6~13歳の選手の3,742人(36.6%)が、肩または肘の痛みを経験していました。[2]
痛み自体は珍しいことではありません。
だからこそ大切なのは、
「痛みがあるか、ないか」
だけではなく、
「どのような痛みなのか」
「繰り返しているのか」
「肘の機能に変化があるのか」
を確認すること
です。
この記事では、保護者が「少し様子を見る」「投球を止める」「医療機関へ相談する」を考えるための目安を整理します。
※この記事は一般的な医学・スポーツ医学情報を提供するもので、個別の診断や治療を行うものではありません。
強い痛みや明らかな外傷、肘が動かせないなどの症状がある場合は、早めに医療機関へ相談してください。
- この記事を読むと分かること
- 1.まず結論:子どもが投球で肘を痛がったら、まず投球を続けない
- 2.「病院に行くべき?」と迷ったら、まず5つを確認
- 3.こんな症状なら、受診を考えたい
- 4.「少し様子を見る」のは悪いこと?
- 5.「痛くないから病院に行かなくていい」とも限らない
- 6.野球肘検診にはどんな意味がある?
- 7.「大げさかもしれない」と思わなくていい
- 8.子どもが「病院に行きたくない」と言ったら?
- 9.何科に行けばいい?
- 10.接骨院と病院、どちらに行けばいい?
- 11.病院では何を調べる?
- 12.受診前に準備しておくと役立つこと
- 13.痛みが治まったら、すぐ元通りに投げていい?
- 14.小学生・中学生・高校生で考え方は同じ?
- 15.筆者の経験から|受診したから分かったこと
- 16.よくある質問
- 17.この記事で最も覚えてほしい5つのこと
- 18.次に読むべき記事
- 参考文献・情報源
この記事を読むと分かること
- どのような肘の痛みなら受診を考えたいか
- 「少し様子を見る」と「受診する」をどう考えるか
- 痛みが一度治まっても注意したいケース
- 痛みがなくても検診に意味がある場合
- 何科を受診すればよいか
- 受診前に確認しておくとよいこと
- 子どもの「病院に行きたくない」にどう対応するか
1.まず結論:子どもが投球で肘を痛がったら、まず投球を続けない
最初に、最も大切なことをお伝えします。
投球で肘が痛むなら、その痛みを我慢して投げ続けないことが基本です。
日本整形外科学会は、野球肘について「投球の中止が重要」であり、痛みを我慢して投球を続けることで障害が悪化することがあると説明しています。[1]
ここで大切なのは、投球を休むこととすべての運動を禁止することを同じにしないことです。
病態によっては、投球以外の運動やリハビリテーションを行う場合もあります。
まずは、
痛みを出している投球を止める
ところから考えます。
2.「病院に行くべき?」と迷ったら、まず5つを確認
肘の痛みが出たら、次のことを確認してください。
① いつから痛い?
- 今日初めて
- 数日前から
- 毎週のように繰り返している
- 以前にも同じ場所が痛くなった
② 何をすると痛い?
- 強く投げると痛い
- キャッチボールでも痛い
- 投球後に痛い
- 肘を曲げると痛い
- 肘を伸ばすと痛い
- 日常生活でも痛い
③ 痛みはどう変化している?
- 少しずつ軽くなっている
- 変わらない
- 強くなっている
- 投げるたびに出る
④ 肘の動きに変化はない?
- 伸びにくい
- 曲げにくい
- 左右差がある
- 引っかかる感じがある
⑤ 最近、投球量は増えていない?
- 試合が続いた
- 投手をする機会が増えた
- 練習日数が増えた
- 複数チームで活動している
- いつもより多く投げた
これらは診断のためのセルフチェックではありません。
医療機関に相談するとき、症状や経過を伝えるための情報整理として考えてください。
3.こんな症状なら、受診を考えたい
次のような症状がある場合は、整形外科などの医療機関への相談をおすすめします。
- 投球するたびに肘が痛む
- 同じ痛みを何度も繰り返している
- 痛みが徐々に強くなっている
- 投球後も痛みが残る
- 練習の翌日まで痛い
- 肘が伸びにくくなった
- 肘が曲げにくくなった
- 肘が引っかかる
- 腫れがある
- 日常生活でも痛む
- 痛みを避けて投球フォームが変わった
- 投げる量を減らしても痛みが続く
日本整形外科学会でも、野球肘の症状として投球時・投球後の痛み、肘の曲げ伸ばしの悪化、急に動かせなくなることなどが紹介されています。[1]
特に、
「痛み」+「肘の動かしにくさ」
がある場合は、単純な筋肉疲労だけで判断しない方がよいでしょう。
4.「少し様子を見る」のは悪いこと?
すべての痛みについて、直ちに重大な疾患を疑う必要があるわけではありません。
ただし、
「様子を見る」=「何もしない」
ではありません。
投球による痛みがある場合は、まず投球を止めたうえで、症状がどう変化するかを確認します。
例えば、
投球を止める
↓
痛みが軽くなる
↓
再開するとまた痛む
という経過なら、単に「治った」と判断せず、受診を検討した方がよいでしょう。
また、
痛みが続く
痛みが強くなる
何度も繰り返す
肘が動かしにくくなる
といった場合は、「もう少し様子を見よう」と先延ばしにしないことが大切です。
日本整形外科学会も、同じ部位に痛みを繰り返す場合には専門医の受診をすすめています。[3]
5.「痛くないから病院に行かなくていい」とも限らない
ここは成長期の野球選手を考えるうえで重要なポイントです。
成長期の選手では、自覚症状がなくても肘に画像上の異常がみられる場合があります。
例えば、7~12歳の野球選手210人を対象とした前向き研究では、無症状の選手にも超音波で内側上顆部の異常が認められ、
そのような異常を持つ選手では、その後の肘傷害が多くみられました。[4]
*内側上顆=上腕骨(二の腕の骨)の肘側で、内側にある突起のこと
ただし、ここから、
「痛みがない子どもも全員病院で検査すべき」
とは言えません。
この研究が示しているのは、
無症状でも異常所見が存在することがあり、その一部がその後の傷害と関連していた
ということです。[4]
したがって、
痛みがない=絶対に問題ない
痛みがない=全員受診が必要
と一律には考えません。
6.野球肘検診にはどんな意味がある?
地域によっては、少年野球選手を対象にした野球肘検診が行われています。
Otoshiらは、6~12歳の少年野球選手4,249人を超音波で評価し、年齢やポジションなどと肘の画像所見との関係を調査しました。[5]
また、日本整形外科学会も、運動器疾患では無症状の期間が存在する場合があり、検診時に痛みがなくても確認する意義について説明しています。[3]
ただし、
検診で異常所見が見つかった=すぐに病気が確定する
というわけではありません。
検診は、必要な評価につなげるための入口として考えるとよいでしょう。
地域で検診の機会がある場合は、所属チームや地域の少年野球団体、医療機関などに確認してみてください。
7.「大げさかもしれない」と思わなくていい
保護者の立場では、「この程度で病院に行ったら大げさかな」と思うこともあるでしょう。
しかし、
受診した結果、特に大きな問題がなかった
ということは、決して悪い結果ではありません。
反対に、
痛みが続いていたのに、受診を先延ばしにした
ということは、後から振り返ると残念な結果になる場合があります。
もちろん、すべての痛みに同じ対応が必要という意味ではありません。
大切なのは、「受診していいのかな」と迷ったこと自体を、受診を避ける理由にしないことです。
8.子どもが「病院に行きたくない」と言ったら?
ここも、保護者が悩みやすいところです。
子どもが、
「病院に行ったら野球ができなくなる」
と思っていることがあります。
だから、「病院に行けば野球ができなくなるかもしれない」ではなく、
「今の身体がどうなっているのか確認するために行く」
と伝える方がよいでしょう。
診断や治療の必要性は、症状や病態によって異なります。
受診したからといって、
必ず長期間野球を禁止される
とは限りません。
一方で、必要な休養が提案される場合には、その理由を理解したうえで対応することが重要です。
9.何科に行けばいい?
基本的には、
整形外科
が受診先です。
可能であれば、
- スポーツ整形外科
- 小児・成長期のスポーツ障害を診療している医療機関
- 野球肘を診療している医療機関
なども選択肢になります。
近くに専門施設がなければ、まず地域の整形外科を受診し、必要に応じて専門医療機関へ紹介してもらう方法でも構いません。
10.接骨院と病院、どちらに行けばいい?
ここは、筆者自身が柔道整復師であることも踏まえて、あえて明確にしておきます。
子どもの肘痛について、
- 成長期特有の障害が心配
- 繰り返し痛む
- 肘が動かしにくい
- 腫れがある
- 強い痛みがある
- 外傷がある
という場合には、まず整形外科などの医療機関で状態を確認することをおすすめします。
そのうえで、医師の診断や方針を踏まえて、必要に応じてリハビリテーションやコンディショニングを行います。
これは、接骨院・治療院を否定する話ではありません。
「今、何が起きているのかを確認する」という目的では、医療機関での評価が重要
という考え方です。
11.病院では何を調べる?
医療機関では、まず、
問診
↓
身体診察
↓
必要に応じて画像検査
という流れで評価します。
問診では、
- いつから痛いのか
- どこが痛いのか
- 投球時か、投球後か
- 何球くらい投げているか
- 練習頻度
- 過去の痛み
などを確認します。
身体診察では、
- 肘の可動域
- 圧痛
- 腫れ
- 筋力
- 関節の状態
などを確認します。
必要に応じて、
- X線
- 超音波
- MRI
などの画像検査が選択されます。
日本整形外科学会では、野球肘の診断にX線やMRIを用いることを説明しています。[1]
詳しくは、→ 野球肘の検査|X線・エコー・MRIの違いで解説します。

12.受診前に準備しておくと役立つこと
受診前に、次の内容を整理しておくと診察時に伝えやすくなります。
| 項目 | 確認すること |
|---|---|
| 痛みの開始 | いつから? |
| 痛む場所 | 内側・外側・後ろなど |
| 痛むタイミング | 投球中・投球後・翌日 |
| 痛みの変化 | 強くなった・変わらない・軽くなった |
| 肘の動き | 伸びにくい・曲げにくい |
| 投球量 | 1日・1週間にどのくらい投げたか |
| 練習量 | 何日・何時間程度か |
| 最近の変化 | 試合数、投手起用など |
| 過去の症状 | 同じ場所の痛みがあったか |
特に、
「いつから」「何をすると」「どう痛いか」
の3つは、できるだけ具体的に伝えましょう。
13.痛みが治まったら、すぐ元通りに投げていい?
ここも注意が必要です。
例えば、
月曜日:痛い
火曜日:休む
水曜日:痛くない
となったとしても、「じゃあ木曜日から全力投球」とすぐ戻すとは限りません。
野球肘には複数の病態があり、休養期間や復帰方法は状態によって異なります。
日本整形外科学会も、スポーツへの復帰時期については主治医と十分に相談するよう案内しています。[1]
また、Little League Shoulderとは異なりますが、成長期の投球障害では症状が改善した後に段階的に競技へ戻すという考え方が重要です。
詳しくは、→ 野球肘から投球復帰するまでの考え方で解説します。

14.小学生・中学生・高校生で考え方は同じ?
基本的な考え方は共通しています。
ただし、成長段階によって注意する点は変わります。
小学生
成長途中の骨・軟骨などへの負荷を考える必要があります。
特に、痛みを「成長期だから」と決めつけないことが重要です。
中学生
体格・競技レベル・投球量が変化しやすい時期です。
硬式への移行やチーム環境の変化などによって負荷が増える場合があります。
高校生
投球強度や競技レベルが高くなり、累積した投球負荷や疲労も含めて考える必要があります。
ただし、
「小学生なら必ず受診」「高校生なら様子見」
という単純な年齢別ルールではありません。
15.筆者の経験から|受診したから分かったこと
私自身、中学生のときに腰の痛みが続き、病院を受診したことで診断がついた経験があります。
診断結果を聞いたときは、正直ショックでした。
でも、今振り返ると、
受診したからこそ、自分の身体で何が起きているのかを知ることができた
と思っています。
一方で、肩や肘にも痛みがありましたが、当時は受診せず、「これくらいなら大丈夫」と考えていました。
そのまま高校まで、だましだまし野球を続けました。
柔道整復師・鍼灸師として身体の構造や機能を学んだ今だからこそ分かることがあります。
それは、
「受診したこと」より、「痛みをそのままにしたこと」の方を後悔しやすい
ということです。
もちろん、私自身の経験がそのまま医学的な判断基準になるわけではありません。
ただ、今、子どもたちを指導する立場としては、
「痛いけど、みんな我慢しているから」
という考え方だけはしてほしくないと思っています。
16.よくある質問
Q1.少し痛いだけでも病院に行っていい?
はい。
「この程度で受診していいのかな」と感じること自体は、受診を避ける理由にはなりません。
特に痛みを繰り返す場合、投球後も痛む場合、肘の動きが変化した場合は、受診を検討してください。[1]
Q2.痛みが1日で治ったら受診しなくてもいい?
一度きりの軽い症状が、その後まったく起こらないケースもあります。
ただし、
投げると毎回痛い
何度も同じ場所が痛い
という場合は、1日で痛みが消えても慎重に考える必要があります。
Q3.湿布を貼って様子を見てもいい?
痛みに対する一時的な対応として行われる場合があります。
ただし、湿布などで症状が軽くなったことと、原因が解決したことは同じではありません。
痛みを抑えながら投球を続ける目的で使うことは避け、症状が続く場合は受診を検討してください。
Q4.病院に行ったら、必ず野球を休むことになりますか?
必ずしもそうとは限りません。
必要な休養や投球制限は、障害の種類や程度によって異なります。
日本整形外科学会も、復帰時期については主治医と相談するよう案内しています。[1]
Q5.野球肘検診は、痛くなくても受ける意味がありますか?
地域で実施されている検診には、無症状の段階で肘の異常を確認するという意味があります。
一方で、検診を受けることと病気が確定することは同じではありません。
検診で所見があれば、必要に応じて医療機関で評価します。[3][5]
Q6.キャッチボールなら続けてもいい?
「キャッチボールなら安全」と一律には言えません。
投球動作で痛みが出ているのであれば、キャッチボールも投球負荷の一部です。
痛みがある状態で投球を続けず、状態を確認することを優先してください。
17.この記事で最も覚えてほしい5つのこと
① 投球で肘が痛むなら、痛みを我慢して投げ続けない
日本整形外科学会も、野球肘では投球の中止と肘の安静が重要としています。[1]
② 繰り返す痛みや肘の動きの変化は受診を考えるサイン
特に「何度も同じ場所が痛む」「肘が伸びにくい」は軽視しないようにします。[1][3]
③ 「成長期だから仕方ない」と決めつけない
成長期には成人とは異なる投球障害が起こる可能性があります。
④ 痛みがなくても、成長期には検診が役立つ場合がある
無症状でも画像上の異常が見つかることがあり、その一部はその後の傷害と関連しています。[4]
⑤ 「受診したら大げさ」ではない
病院で問題がなかったとしても、それは「無駄な受診」ではありません。
18.次に読むべき記事
野球肘の全体像を知りたい方へ
→ 野球肘とは?症状・原因・治療・予防・投球復帰まで徹底解説
今、練習を続けていいか迷っている方へ
痛みの場所が気になる方へ
検査について知りたい方へ
治療について知りたい方へ
予防について知りたい方へ
→ 野球肘の予防方法
投球復帰について知りたい方へ
参考文献・情報源
参考文献の取り扱い→医療情報の編集方針
[1]日本整形外科学会
「野球肘」
成長期の野球肘の症状、原因・病態、診断、予防・治療、投球中止、復帰について。
[2]日本整形外科学会・全日本野球協会による全国調査
Shoulder and Elbow pain in Young Baseball players
2014年質問票調査。539 coaches、10,228 players、6~13歳を対象。肩・肘痛経験者3,742人(36.6%)が報告されています。
https://baseballjapan.org/common/news_doc/news_pdf_1264_0001.pdf
[3]日本整形外科学会
保護者・養護教諭・学校医向けFAQ
運動器疾患の無症状期間や、同部位に繰り返す痛みがある場合の受診について。
[4]Shitara H, et al. 2021
Asymptomatic Medial Elbow Ultrasound Abnormality in Youth Baseball Players Is an Independent Risk Factor for Elbow Injury: A Prospective Cohort Study.
Orthopaedic Journal of Sports Medicine. 2021;9(4).
doi:10.1177/2325967120986791.
7~12歳、210人を対象とし、無症候性の内側上顆apophysitisとその後の肘傷害との関連を検討。
[5]Otoshi K, et al. 2017
Age-Specific Prevalence and Clinical Characteristics of Humeral Medial Epicondyle Apophysitis and Osteochondritis Dissecans: Ultrasonographic Assessment of 4249 Players.
Orthopaedic Journal of Sports Medicine. 2017;5(5).
4,249人の少年野球選手を超音波で評価した日本の研究。
この記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の症状については、必ず医療機関を受診し、専門家の判断を仰いでください。



